「自分が存在する理由」夏目アラタの結婚 サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)
自分が存在する理由
試写会にて。
当たり外れの激しい堤幸彦監督だが、今回は見事大当り回。監督ベスト映画は「望み」だと思っている自分からしたら、もう大満足。いやぁ、面白かった!楽しみにしていた映画がようやく当たって、なんだかホットした。ハズレばっかりで映画離れしちゃいそうだったからね...。
死刑囚との獄中結婚というなかなかぶっ飛んだ漫画らしい設定ながらに、描写や展開が恐ろしくリアルで、上手い具合に現代の社会問題も取り込みつつ、重くなりすぎないよう独特なコミカルさを漂わせた、絶妙なバランスのサスペンス映画。原作未読だけど、原作がいかに緻密でよく練られたものなのか、そして本作の制作陣がどれほどまでにリスペクトしているのか、それがよく伝わってくる作品だった。原作読んでみようかな...という言葉、いつもは口だけだけど、これは本気で読みたい。
なかなかいい役に恵まれず、俳優としての実力を発揮する機会が少なかった黒島結菜。それもあってかあまり好きな女優では無かったんだけど、今回で180度印象が変わった。そもそも、よくもこんな役を引き受けたよな。ボロボロな歯と死んだ瞳。可愛いで売ってきた女優とは思えない体当たりぶり。
面会室シーンにおける、光陰を際立たせる照明や観客の心を操るカメラワークなど、堤監督らしい秀逸な演出も相まって、身体が硬直してしまうほど恐ろしい。なんの脈略もなく突然涙を流すところとか特に、品川真珠という狂気的な人物が完璧に憑依しているようだった。この難役を演じ切る、どころか想像を絶する怪演でやり遂げた功績はデカイ。今後もサスペンス、出演して欲しいな...。
まあわざわざ言う必要ないとは思うが、柳楽優弥は今回も最高だった。というか、当て書きを疑ってしまうほどバッチリなキャラ設定で、黒島結菜との相性もあまりに良かった。柳楽優弥にしか出せない味。チンピラっぽい役をやらせたら、彼の右に出る者はいない。
こんな強烈な2人の影でも、中川大志は似合いすぎる弁護士役でしっかりと爪痕を残し、丸山礼も初演技とは思えない堂々とした立ち振る舞いで、佐藤二朗に至っては佐藤二朗でしかなかったけど、作品をポップに仕上げるのに重要な役割を果たしていた。豪華キャスト陣を見るだけでも儲けもん。みんな、本当に良かった。
サスペンスとしては、漫画12巻分を無理矢理1本の映画にまとめたことで結構駆け足&少々ご都合主義なところがあり、次々と証拠や証言が出てくるのには違和感を感じてしまったものの、テンポがよく見やすいという捉え方をすればそこまで気に触ることではないし、むしろこのくらいのスピード感がもってこいじゃないかと。ただ、鑑識が機能していないのでは?と薄らと思ってしまったが...。
最終的に行き着く先も個人的にはかなり好みだったし、この作品に込められたメッセージと問題提起には上映終了後、じっくりと思考を巡らせることに。あまりネタバレになるから細かいことは言えないけど、母親という存在が子にとって如何に大切になるのか、こういう作品を見ると常々感じる。
設定は漫画らしいけど、中身はかなり知的かつ心理的で、心の声をナレーションにしたり表現が豊かで情景描写が詳細なこともあって、文字がびっしりと詰まった小説を読んでいるような感覚になった。まさに"のめり込んでしまう"ような作品。エンドロールで流れるvampireは原作者・乃木坂太郎が日本語訳したことで、完全に作品の一部に。終始余すことなく夏目アラタの世界に没頭できた。
ココ最近の邦画の中では群を抜いて作り込まれている。結構ガチでオススメできる良作。本気で愛することは、嘘偽りなく向き合うこと。公開日は2024年9月6日です。ぜひ。