劇場公開日 2024年10月4日

「どんな武器よりも怖い人間」シビル・ウォー アメリカ最後の日 Minaさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0どんな武器よりも怖い人間

2025年1月1日
iPhoneアプリから投稿

公開当時から話題となっていた本作だが、各国の緊張状態が高まる今でこそ観るべき作品では無いかと思う。SFスリラーと評される本作だが、その辺のスリラーよりもよっぽど怖い作品だ。正直、「パージ」の比ではない。アメリカで内戦が起こった理由は僅かしか語られず、既に紛争が起きている所からスタートするのだが、いきなり戦場に放り込まれた様に思えるほどの臨場感と恐怖感を感じる事が出来る、凄まじい映画体験を味わえる作品だった。だが、手に汗握る銃撃戦を中心に描くいかにも"アメリカ映画"の視点ではなく、戦場カメラマンの目線で進む物語である為、常に遠くで銃撃音が響く中、破壊された家屋や日常を奪われて避難民として生活する人々らを映しながら戦闘の最前線を目指すという物語であるのが大きなポイントである。数々の作品でアメリカ人の団結力と力を見せつける事が多い中、アメリカ人同士で殺し合うという極めて挑戦的な内容である。中でも、赤サングラスの男が登場するシーンの恐怖感はトラウマ級である。その際の台詞である、「真のアメリカ人」というワードが非常に意味深だ。まさに、これが「真のアメリカ」像なのかもしれない。移民問題や、黒人差別等の話題が取り沙汰されるそれらを表したシーンである。香港出身の記者が"アジア人"というだけで即射殺されるのもアジア差別の象徴であり、撃った張本人の赤サングラス男はまさしく白人だ。アメリカに根付く白人至上主義は、本当にアメリカで内戦が起きた際には間違いなくそれが第一の考えになってしまうはずだ。本編の中では短い一幕だが、兵士が持つアサルトライフルよりも人間の怖さが際立つ身の毛のよだつシーンだ。

普通に全体を鑑賞する楽しさもあるが、本作は様々な受け取り方が出来る作品だ。カメラマン目線のロードムービーという見方も出来れば、若手カメラマンの成長物語でもある。徹底的なリアリティある描写の数々の為、どちらかに注目し直して観ても違った楽しみ方が出来るかも知れない。「アナイアレイション-全滅領域-」や「MEN 同じ顔の男たち」などの難解な作品を生み出したアレックス・ガーランド監督の新たな武器となりそうな新ジャンルだ。アメリカ映画の新たな側面が楽しみになって来た。

Mina