「言葉を失った世界」シビル・ウォー アメリカ最後の日 こんさんの映画レビュー(感想・評価)
言葉を失った世界
主人公はフォトジャーナリスト、その卵、通信社記者に、ニューヨークタイムズの老記者という設定だが総じて言葉が少ない。アメリカが危機なのに、議論はもはやしない。ただ飲んでいる。バーのシーンもあるがろくでもないことを喋っているだけだろう。それに仕事といえば、ただ写真を撮る、あるいは状況を見ているだけ。記事書かないの? 写真、送信しないの? いや、新聞や雑誌が存在しているかどうかさえも怪しい。 リーが一度だけアップロードしていたがそれだけだ。撃ち合いの現場を取材しても、ただ取材しているだけ。精神だけが高揚する、あるいはダウンしていく。つまり、このジャーナリスト達は崩壊している。登場する兵士たちのように、あるいは、平和そうに見える町の無関心な店員のように。ただ、誰もが目の前の状況をクリアすることしか考えていない。大統領でさえも。未来を描くために言葉が必要だが、その未来がないから言葉も必要ないのだろう。良い写真を撮っても、それがどういう写真か、語れなければ、意味がない。現実世界もそうなっている。いや、もうとっくの昔にそうなっていたのだろう。ベトナム戦争の頃から。ここに出てくるジャーナリストの取材スタイルはベトナム戦争のときのそれだ。あの頃から語ることをやめ、刺激だけで人々は生きてきたのかもしれない。それで今だ。大統領候補はただお互いを罵るだけ。あるいは聴衆を鼓舞するだけ。プロレスの会場か? 日本でも政治家や政治家未満のホンモノかニセモノかわからない映像で人々は感情を動かし、しかも行動まで起こしている。この映画のようなことは本当に起こるのかもしれない。リーは狙撃兵に狙われて花が咲く大地に身を伏せているとき、あるいは激しい銃撃戦の中で泣いているとき、その心情を言葉にすれば良かった。彼女はデジカメに刺激的なシーンを撮っていたが、やがてそれもしなくなっていた。メディアやジャーナリズムはもう役に立たないことを示している。映画にはまだ希望がありそうだ。