「リアリティ? なのか?」シビル・ウォー アメリカ最後の日 だむさんの映画レビュー(感想・評価)
リアリティ? なのか?
現代アメリカの内戦がもし起こったら、という思考実験的な映画。
と思うのだが、現代においてSNSやスマホがほぼ登場しないのは不自然だし、そこでこの映画のリアリティはほぼないな、と思う。その点は作っている側もすごく意識していたと思うが、SNSの要素を入れると破綻するか面白くなくなると判断したんだろうと思う。
戦場におけるジャーナリズム、が日本には馴染みのない概念なのが個人的にこの映画を理解しきれない理由だと思う。ルールを知らないスポーツを観戦している感じに近い。日本で戦場でカメラマンと言うと渡部陽一さんを連想するが、彼が撮った写真をちゃんと見た人間が何人いるだろうか。
戦争の発端は政治的な問題のハズが人種差別や暴力など表層の問題に帰結する。こういう社会問題を描いた映画を観るたびに思うが、「面白い」と言っていいのか困る。描いている問題で苦しんでいる人間が実在しているのは確かだ。ただ、サスペンスとロードムービーとしてはすごく完成度が高い面白い映画と思う。
主人公の同行者のジョエルがハイになっていたり、一方でサミーが努めて理性的であろうとしたのも、女性主人公2人がジャーナリズムに徹してようとしているのはその中庸、戦争環境における人間性の表現なんだろう。戦争から眼を背けている人間が登場し、主人公達も家族は戦争には無関心だと共感しあうシーンは、問題を先送りにしたがる人間の弱さを示していて印象的だった。
物語の最後、大統領が兵士に銃を突き付けられジョエルに言葉を求められた時、出た言葉は泣き言であり命乞いだった。アメリカ=大統領とするなら、この思考実験は悲劇的な結論を出してしまったんだろう。せめて気丈な言葉と共に射殺されていれば‥‥‥。