劇場公開日 2024年10月4日

「全ての人間が「的」になるのが戦争」シビル・ウォー アメリカ最後の日 えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0全ての人間が「的」になるのが戦争

2024年10月9日
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鑑賞方法:映画館

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連邦政府から19もの州が離脱したアメリカ。テキサスとカリフォルニアの同盟からなる“西部勢力”と政府軍の間で内戦が勃発し、各地で激しい武力衝突が繰り広げられていた。「国民の皆さん、我々は歴史的勝利に近づいている——」。就任 “3期目”に突入した権威主義的な大統領はテレビ演説で力強く訴えるが、ワシントンD.C.の陥落は目前に迫っていた。ニューヨークに滞在していた4人のジャーナリストは、14ヶ月一度も取材を受けていないという大統領に単独インタビューを行うため、ホワイトハウスへと向かう。だが戦場と化した旅路を行く中で、内戦の恐怖と狂気に呑み込まれていくー(公式サイトより)。

エンドロールが終わり、館内が明るくなってからもしばらく立ち上がることができなかった。IMAXシアターの底力はあったものの、それ以上に、ついさっきまで描かれていた「人間」に立ち竦んでしまった。

本作ではアメリカを舞台に「分断」が引き起こす絶望的な未来を経糸に、ジャーナリズムの本質、暴力がもたらす高揚感、市井の無関心、次世代への継承、アメリカ(アメリカばかりでもないように思うが)で猛威を振るう二元論などが緯糸として織り込まれている。

トレイラーにも採用されている「What kind of American are you ?」というセリフが登場するシーンは、この「分断」を極めて端的に、暴力的に、不気味に描いた白眉だ。ドラえもんの「どっちも正しいと思ってるよ。戦争なんてそんなもんだよ」という名言が頭をよぎる。リー役のキルステン・ダンストのリアル夫であるジェシー・プレモンスが、ほっぺたを掻くように人を殺す、めちゃくちゃおっかない兵士を演じている。チープな赤いサングラスはトラウマモノである。

こうした「正しさ」のぶつかり合いを戦地から報じてきた歴戦のカメラマン・リーは、見習い女性カメラマン・ジェシーに、「自問自答なんてキリがない。記録し続けることよ」と戦場ジャーナリズムの神髄を伝えながらも、その空疎さ、無力さから、次第に心が苛まれていく。

そんなリーとは対照的に、ジェシーは自らも命を落としかねない極めて危険な状況でさえ、時に兵士を追い越して、瞳孔を開いたままシャッターを切り続けたり、時に笑顔を見せたりするようなる。生死の境目にいることに高揚感や興奮を覚えてしまう、悲劇的な成長を遂げ、ラストへと向かっていく。

こうしたリアリティ溢れる演出や、大胆で繊細な俳優陣の演技も然ることながら、圧巻は音である。武器の号砲、人間が踏みつけられる音、ヘリや戦闘機の爆音、戦地に響き渡る怒号、そして場面に全く似つかわしくない穏やかなアメリカンミュージック。ぜひIMAXシアターで堪能したい作品である。

正義による煽動は二元論から生まれる。その瞬間、対立する人間は人間でなくなり、ただの弾丸の「的」になる。二元論を煽る人間、翻弄される人間、無関心を決め込む人間、葛藤する人間、暴力に高揚する人間、状況を報じる人間、その全ての人間が「的」になるのが戦争である。では反戦、非戦はどこが糸口になるのだろうか。現実のアメリカでは民主党支持であるカリフォルニア州と、共和党支持であるテキサス州が同盟を結ぶというフィクションに、アレックス・ガーランド監督からのヒントが仕込まれている。願わくば、ジェシーの年頃の他愛なさ、好奇心、無邪気さが死に直結するような世界にならんこと。

えすけん