「命よりも大事な権力、主義、矜持、そして承認欲求の物語」シビル・ウォー アメリカ最後の日 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
命よりも大事な権力、主義、矜持、そして承認欲求の物語
2024.10.4 字幕 イオンシネマ京都桂川
2024年のアメリカ映画(109分、PG12)
内戦状態のアメリカにて、ジャーナリストの視点で戦争を追う様子を描いたロードムービー
監督&脚本はアレックス・ガーランド
物語の舞台は、近未来のアメリカ・ニューヨーク
戦争写真家として活躍しているリー・スミス(キルスティン・ダンスト)とロイター通信の記者ジョエル(ヴィグネル・モウラ)は、14ヶ月間報道の前に姿を現さない大統領(ニック・オファーマン)にインタビューをしたいと考えていた
二人の師匠的存在のサミー(スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン)は「死にに行くようなものだ」と反対するものの、そんな言葉で彼らが思いとどまるはずもなかった
結局のところ、サミーが折れて一緒に向かうことになったのだが、そこにリーに憧れているジェシー(ケイリー・スピーニー)が同乗することになった
リーは戦場を知らない素人カメラマンを連れていくことに反対だったが、とりあえずワシントンの手前までの同行を許可することになった
サミーの助言にて、ピッツバーグからウエストバージニア経由でワシントンに向かうことになった彼らだったが、国内は大統領率いる「正規軍」、テキサスとカリフォルニア主導の「西部勢力(WF)」、独立政府を企てる「分離派」、フロリダを中心とした「フロリダ同盟」などが入り乱れている状況だった
誰がどこの所属かわからず、州によって分断されていて、かつ差別主義者が好き放題したり、部外者を排除する集落などもある
また、内戦とは距離を置く田舎などもあって、彼らの道中は、かつてのアメリカの面影が消えたものになっていた
映画は、ジャーナリストが内戦の実情を見ていくというもので、リーが人間に戻り、ジェシーが戦争写真家になっていく様子を描いていく
これまでに何度も死線を潜ってきたリーが、サミーの死によって生き方を変える様子が描かれ、一線を超えたジェシーは自らの命よりもファインダーの中の世界にのめり込んでいってしまう
かつてのリーはジェシー同様に怖いもの無し状態だったが、近しい人の死によって現実に引き戻されていて、それが最前線で起こっている、という内容になっていた
主要キャストはそこまで多くないが、どこの所属かわからない兵士がたくさん登場する
彼らも「相手が撃ってくるから迎撃している」という感じで、同じ軍服同士の戦いになってしまうと、距離を置く以外に生き残る術はないように感じる
彼らはジャーナリストだから最前線に赴くものの、その場所に向かう格好とは思えない姿で突入したりするので、後半はほぼファンタジーに近い
ラストでは「サブ邦題で完全ネタバレシーン」を観ることになるが、あの邦題を考えた人はバカなんじゃないかと心底思ってしまった
いずれにせよ、いつものアメリカマンセー戦争映画を期待しているとダメな内容で、重機はほとんど登場しない
銃撃戦の迫力はあるが、それ以上に差別主義者(ジェシー・プレモンス)の「本当のアメリカゲーム」の方が緊張感が凄いので、その辺りを楽しむ映画なのかなと思った
トランプ政権が誕生しそうなところで、このようなネタをぶち込んでくるところに、アメリカの映画に対する姿勢が見えてくるのだが、このような映画は日本では作られるはずもないので、その懐の深さには感嘆する次第である