「史実を知って観ると退屈に思えるが、何も知らずに観ると仰天してしまうと思う」ガール・ウィズ・ニードル Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
史実を知って観ると退屈に思えるが、何も知らずに観ると仰天してしまうと思う
2025.5.22 字幕 MOVIX京都
2024年のデンマーク&ポーランド&スウェーデン合作の映画(123分、PG12)
実際に起きた事件をベースに紡がれるクライムミステリー
監督はマグヌス・フォン・ホーン
脚本はマグヌス・フォン・ホーン&リーネ・ランゲベク
原題は『Pigen med nalen』、英題は『The Girl with the Needle』で、「針を持った女」という意味
物語の舞台は、1920代のデンマーク・コペンハーゲン
縫製工場で働いている裁縫師のカロリーネ(ビク・カルメン・ソネ)は、戦争から帰らぬ夫を待ちながらも、行方しれずのために寡婦年金を受け取ることもできなかった
工場の社長ヤアアン(ヨアキム・フィェルストルプ)の伝手を頼るものの、その状況は変わらなかった
カロリーネは夫が死んだものと思い込むようになり、想いを寄せているヤアアンに心を許していく
そして、大人の関係になり、さらには妊娠まで発覚してしまった
カロリーネは結婚を考えていたが、ヤアアンの母(Benedikte Hansen)はそれを認めず、妊娠したのかも疑っていく
結果として、それは証明されたものの、「結婚するなら私のお金は一銭も出さない」と言われてしまう
母親に依存していたヤアアンはカロリーネを捨てることになり、工場もクビになって路頭に迷うことになった
物語は、そんな彼女の元に夫ピーダ(ベーシア・セシリ)が戻ってくるところから動き出す
ヤアアンの母親に反対されるまでは「新しい人ができた」と突き放すものの、生活が困窮し、誰かを頼らざるを得なくなる
ピーダは戦争で傷ついた顔を見せ物としてサーカスの一員になっていて、彼女はそのパフォーマンスに参加することになった
二人は寄りを戻すことになり、一度は堕胎を考えるものの、子どもは無事に生まれた
ピーダは育てたいと考えるものの、カロリーネは耐え難くなり、街で噂されているあることに委ねることを決める
それが菓子屋を営んでいるダウマ(トリーヌ・ディホルム)で、彼女は非摘出子の里親探しを行なっていた
カロリーネは彼女にお金を払い、ヤアアンとの子を里親に出すことに同意する
だが、ダウマは里親には出さず、あることをずっと行なっていたのである
映画は、実話ベースの物語で、ダウマという女性はデンマークで唯一と言って良いほどの連続殺人犯だとされている
合計25人(有罪判決は9人)を殺害し、新聞は「天使製造者(エンジェルマスター)」と書き立てた
当初は金銭目的だったものが徐々に変質し、正義感を持つようになっていく
それは、当時のデンマークでは非摘出子は空気のような存在で、公的な援助の対象外だったことも要因であるとされている
映画は、ダウマが何をしたかというのがミステリーとなっていて、実際の事件を知っていると「なかなか事件が起きない」と感じられると思う
不幸な女性カロリーナの不遇の人生と、戦後に行き場をなくした負傷兵の人生の方がクローズアップされていて、ダウマという存在はあまり認知されないまま進んでいく
そうして後半になって、カロリーヌがダウマのところで働き出してから「異変」を感じるというようになっていて、これは当時の無関心さというものを表していたのだと思う
後半は畳み掛けるような鬱展開だったのだが、ダウマ自身がカロリーネを引き入れたことが発覚に繋がっているので、彼女はどこかで着地点を探していたのかもしれない
ラストでは、イレーネをカロリーネが引き取るというシーンで結ばれるが、カロリーネがピーダの言葉に従ってスーシーを育てていれば、この事件には無縁だったかもしれない
それと同時に事件の発覚も遅れていたと思うので、妙な因果が社会を変えることになったのだなと思った
いずれにせよ、小さい子どもを持つ女性は閲覧注意の作品で、精神的にもキツイ作品であると思う
社会の犠牲になったと言えばそれまでだが、役割を自認する正義感ほど恐ろしいものはない
現在の閉塞的な空気も近いところがあって、国家の将来を危ぶむゆえに子どもを作らないという考えの人もいると思う
そう言った部分も含めれば、弱肉強食の世界で、成果主義と自己責任論で塗れていくと、いずれは落ちこぼれていく人が出て、それが商売になっていくという時代性は、今も変わらないのかな、と感じた
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