「インド市井の女性たちが織りなす静謐なドラマ」私たちが光と想うすべて おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
インド市井の女性たちが織りなす静謐なドラマ
◾️作品情報
監督・脚本はパヤル・カパーリヤー。主要キャストはカニ・クスルティ、ディヴィヤ・プラバ、チャヤ・カダム、リドゥ・ハールーン。2024年・第77回カンヌ国際映画祭でワールドプレミア上映され、グランプリを受賞したフランス・インド・オランダ・ルクセンブルク合作映画。
◾️あらすじ
ムンバイで看護師として働くプラバと年下の同僚アヌはルームメイトだが、それぞれの人生にはままならない現実があった。真面目なプラバは、親が決めた相手と結婚したものの、ドイツに住む夫からは長らく連絡がない。陽気なアヌはイスラム教徒の恋人と秘密の恋愛をしているが、家族に知られることを恐れている。そんな中、同じ病院の食堂で働くパルヴァティが立ち退きを迫られ、故郷の海辺の村へ帰ることを決意する。プラバとアヌは、ひとりで生きていくというパルヴァティを村まで見送る旅に出る。神秘的な森や洞窟のある別世界のような村で、彼女たちはそれぞれの人生を見つめ直す。
◾️感想
インド映画と聞くと、華やかなダンスと歌のイメージが先行しがちですが、『私たちが光と想うすべて』は、そんなインド映画のイメージとは一線を画す、静かで内省的な作品です。ムンバイの喧騒の中で生きる市井の女性たちの日常を、まるでドキュメンタリーを観ているかのように、ありのままに穏やかに描き出しています。
真面目で内向的なプラバと、奔放で現代的なアヌ。対照的な二人の看護師の姿は、現代インド社会に生きる女性たちが抱える息苦しさと、そこから抜け出したいと願う自由への希求を、等身大で誠実に浮かび上がらせています。彼女たちの心情に寄り添い、その微細な揺れ動きを丁寧に捉えるカメラワークは、観る者の心に静かに染み入るようです。
しかし、その抑制された演出ゆえに、物語の展開は時に淡々とし、退屈に感じてしまう面もあります。ドラマチックな起伏は少なく、観客自身が彼女たちの感情に深く潜り込み、共鳴できるかどうかに委ねられる部分が大きいと感じます。それでも、ラストに向けて見せる二人の変化、特にプラバの内面の解放が詩的に描かれる場面は印象的で、静けさの中に確かに灯る希望の光を感じさせます。
大都市ムンバイで、既存の枠に自分をはめることで心の安定や社会的体裁を保ってきた三人の女性たち。彼女たちが、事情は違っても、内に秘めた息苦しさ、生きづらさに共感しあい、海辺の村で自身を解放する姿が眩しく映ります。光は、都会の幻想ではなく、彼女たちの心の中にあったのでしょう。
