劇場公開日 2025年7月25日

「「花嫁はどこへ?」と並走する、インド発女性映画のトップランナー」私たちが光と想うすべて 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 「花嫁はどこへ?」と並走する、インド発女性映画のトップランナー

2025年7月23日
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鑑賞方法:試写会

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2024年のカンヌ・コンペ部門でグランプリを獲った話題作。念のため、カンヌの最優秀賞はパルムドールであり(昨年の受賞作は「ANORA アノーラ」)、グランプリは準優勝に相当する。この年のコンペ出品作を振り返ると「エミリア・ペレス」「憐れみの3章」「メガロポリス」「アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方」「サブスタンス」など力作がひしめいており、これらをおさえての銀メダルと考えれば「私たちが光と想うすべて」への期待も高まるのではないか。

インド第2の大都市ムンバイの病院で働く3人の女性たち。看護師のプラバは既婚者だが、見合いで結婚した夫がドイツで働いていて疎遠になっており、年下の同僚アヌとアパートに同居している。アヌはイスラム教徒の青年と交際しているが、インドではヒンドゥー教徒が大多数であることから親や周囲から猛反対されるのは明らかなので、恋人のことは隠している。病院の食堂に勤める寡婦のパルヴァディは自宅から立ち退きを迫られているが、プラバが親身になり助けようとする。

「女性たちの友情」と単純に紹介されることもあるが、世代も境遇も違う3人の彼女らの繊細な絆や連帯感、穏当なシスターフッドの物語と評すべきではなかろうか。前半は都会を舞台に、プラバとアヌ、プラバとパルヴァディの関係がそれぞれ描かれるが、後半のパルヴァディが故郷の村へ帰る際にほかの2人が手伝いで同行する展開が、海辺のロケーションも相まって開放的で心地よい。

監督兼脚本のパヤル・カパーリヤーも女性で、本作で長編劇映画デビューを飾ったムンバイ出身。今年5月開催の第97回アカデミー賞のインド代表を「花嫁はどこへ?」(日本では2024年10月公開)と競うも選ばれなかったが、両作ともに女性監督がメガホンをとった女性映画である点も共通する。当サイトで「花嫁はどこへ?」の新作評論を担当し、「インド映画の2大潮流として、複数の娯楽ジャンルを混ぜ合わせた商業的な“マサラ映画”と、マサラ映画の特徴である歌とダンスのシークエンスを排した現実主義的な“パラレル映画”」と紹介したが、こちらの「私たちが光と想うすべて」もパラレル映画の流れ。インド固有の階級制や宗教事情を背景にしつつ、女性の自由や自立という普遍的な題材を繊細な感性で扱っている点において、世界で、そして日本でも評価されてしかるべき好ましい佳作だ。

高森 郁哉