「この映画を日本人にわかれと言われても。」グランドツアー 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
この映画を日本人にわかれと言われても。
グランドツアーと言えば、イギリスの裕福な貴族の子弟が学業の終了時に行った国外旅行とだけ覚えていた。日本の卒業旅行の起源か。映画の前半では、大英帝国の公務員エドワードが、優柔不断のまま7年越しの婚約者から逃げるために、アジアの各地を旅し、後半ではその婚約者モリーが、その後を追いかける冒険譚。
エドワードは、任地に近いビルマ(ミャンマー)のラングーンを出発点に、シンガポール、タイのバンコク、ベトナムのサイゴン、フィリピン、日本、中国の奥地へと逃げる。モリーは彼のあとを追って、サイゴンから中国へと移っていた。当時の情景は、主にセットで撮影されモノクロで、挿入される現在の情景はカラーで出てくるが、モノクロの背景にもスマホやオートバイなど現在の情景が映り込んでいる。この映画は、時間と空間を越えていた。会話には、監督の母国語であるポルトガル語が用いられているが、欧州の言葉(フランス語や英語)はそのまま出てきて、かつ現地ではビルマ語を始め、それぞれの土地の言葉が縦横に使われる。つまり多言語のパレード。しかし、字幕では全く区別がなく、しかもしばしば翻訳なし。
欧州では、この映画は2024年カンヌの監督賞をはじめ、極めて評判がよいが、日本ではさっぱり、なぜだろう。舞台は1918年、第一次世界大戦の終結の年。この戦争で英国は多くの俊秀を喪い、大英帝国は事実上滅びた。この映画の出演者の運命もそれを反映しているが、欧州の観衆には自明だろう。
彼らには東洋への憧れがある。現在、欧州ではプーチンによるウクライナ侵攻、イスラエルのガザをはじめとした周囲への攻撃は止む気配がなく、英国のブレグジットやフランスでの超保守の台頭など、油断のならない情勢が続いている。
この映画で最も印象的だったのは、長江の河口に近い上海に上陸して川を遡り、激流で橋をかけることができなかった重慶、さらに成都を経てチベットをうかがう中国での情景だが、最も強い違和感を持って語られていたのが日本文化であったことも忘れてはならない。それだけ、関心が高いのだろう。しかし、映画を見ていた私たちにわかれと言われても。
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