「ショービズもルッキズムもミートゥーも、みんなまとめてグッチャグチャw」サブスタンス jin-inuさんの映画レビュー(感想・評価)
ショービズもルッキズムもミートゥーも、みんなまとめてグッチャグチャw
一度脚光を浴びてしまったスターは、その密の味が忘れられないのでしょう。引退後にドラッグに手を出した元スター野球選手もいました。ホームランを打った時に出る脳内麻薬物質を外から投与したのでしょうか。
本作の主人公はHollywood Walk of Fameにプレートが埋め込まれている元映画女優です。スタイルは保っているものの、顔に出る年齢はごまかせていません。今はテレビのエアロビ番組が唯一の仕事のようですが、降ろされてしまいます。彼女は若さと美しさを失うとともに、仕事、名声、脚光、賛辞、称賛、全てを失ってしまいます。
豪勢でおしゃれなマンションの部屋は、彼女の心の空虚さと孤独を際立たせます。そんな彼女に秘密の招待状が届きます。秘薬「サブスタンス」を使えば、もう一人の自分が分身として現れ、若さと美しさを取り戻せます。でも本体と分身は同時に活動することはできず、1週間毎の活動になります。初老の女性なら、この招待を断ることは難しいでしょう。彼女もそうです。
分裂したふたつの自己は身体も意識も別々です。本体は徐々に分身の方へ若さを吸い取られていきます。でも止められません。なんとか止めようと思っても、年老いた本体は若い分身に勝ち目はありません。お互いに憎しみをたぎらせ、ついに自分vs自分の戦いが勃発します。
分身狙いでカマかけてくる隣人のバカ男を「FUCK OFF!」と蹴散らす本体に爆笑。できれば分身が連れ込んだイケメンマッチョも本体と遭遇させてしょんべん漏らさせて欲しかった!
ショービズ界が求めているのは視聴者に受ける「若くて美しい女性」です。一方、若く美しい女性の方も、「ルッキズム」を利用しのし上がろうとします。彼女にルッキズムを批判することはできません。でも、馬鹿男や金持ちの年寄が寄ってくるし、若さを失った時には彼女になんにも残りません。商品価値を失ったら見捨てられるだけです。なんとも残酷でいやらしい世界です。
そんなショービズ界や男たちをみんなまとめてグッチャグッチャの血まみれにするエンディングがなんとも痛快でした。監督の怒りが迸りまくる過剰演出が最高です。
それにもまして、デミ・ムーア(62)の女優魂には心を打たれました。全てをさらけ出す鬼気迫る演技、さすがです。顔だけになっても根性で這い進む姿に思わず声援を送りたくなりました。女性監督と女性俳優が織りなす物語はおどろおどろしい女性の情念を見事に可視化したグッチョングッチョンのSFホラー。スタイリッシュで切れのある演出にクローネンバーグ「The Fly」オマージュシーンも挟まれて楽しい一作でした。長い長い廊下や高い高いシャワールームも超クローズアップの多用も光や炎を使ったトリップ効果のあるシーンも気味悪いテーマ音楽もクライマックスの「2001年宇宙の旅(ツァラトゥストラはかく語りき)」も、センス最悪(褒めてる)で楽しい!
年を取るという哀しさ、バカ男共への怒り、過剰シーンとエロシーンの楽しさ、モンスターの気色悪さ、クライマックスのバカバカしさ。観てるこっちの感情までグチャグチャになってしまうところが、普通のホラーとは一線を画すところです。
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