「意外に哲学的で予想外にグロテスクなブラックコメディ」サブスタンス 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
意外に哲学的で予想外にグロテスクなブラックコメディ
五十路に差し掛かったかつての人気女優エリザベス(デミ・ムーア)が、その年齢ゆえにテレビ番組を下されてしまい、逆襲するために”禁断の薬”に手を出してしまうというお話でした。彼女は病院で出会った謎の男性看護師から若返れるという”禁断の薬”を紹介され、怪しげな場所でGET。注射をすると若返った分身が生まれるものの、本体であるエリザベスと、分身のスー(マーガレット・クアリ―)は、1週間ごとに入れ替わらないと駄目という設定に全ての鍵がありました。
念願のピッチピチの肉体を得たエリザベスでしたが、どうやら分身とは表裏一体だけれども別人格を有しているようで、テレビにデビューしていっぺんに人気者になったスーに強烈な嫉妬心を抱くことに。一方スーも、1週間限定でしか脚光を浴びることが出来ないことに不満を抱き、さらには老いに対する嫌悪感も加わって、コインの裏と表で対立する驚愕のブラックコメディに仕上がっていました。
ただエリザベスとスーの喜劇的かつ悲劇的な対立の元を辿ると、エリザベスをクビにしてスーを抜擢したテレビのプロデューサーであるハーヴェイ(デニス・クエイド)に代表される、”クソ男”のミソジニーに原因があり、彼女ら(と言っても本当は同一人物なんだけど)は2人とも被害者だったようにも受け取れました。勿論彼女ら自身も欲望の塊であり、決して聖人君子には描かれていませんでしたが、”クソ男”の存在がそういう人間を作り上げてしまったように思えました。そういう意味では、出来ればハーヴェイを2人で成敗してエンディングを迎えて欲しかったのですが、残念ながらそうはならず、2人は憤激の末に自壊してしまうところがまたブラックコメディ。この辺も中々憎い展開でした。
それにしても、本作では50歳という設定だったエリザベスでしたが、デミ・ムーアの実年齢は62歳。劇中のフィットネス番組で見せたエアロビクスの動きと言い、その身体つきと言い、還暦超えても健在ぶりを示した一作でした。また、そのままで充分に美しいエリザベスとスーのルックが、その内なる怪物に侵されて文字通りグロテスクな怪物に変容してしまう表現も、中々秀逸な人間心理の具象化だったかなと感じました。
そんな訳で、本作の評価は★4.4とします。
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