「そもそも最初から綺麗だろ」サブスタンス 弁明発射記録さんの映画レビュー(感想・評価)
そもそも最初から綺麗だろ
そもそも主人公は最初から年齢の割には充分綺麗過ぎだろ!しかも結構高そうな部屋に住んでて!あんなしょうもないエアロビ番組に固執する必要ないだろ!と観客に思わせてるのはいいことだと思う。
なぜなら今作は「(客観的に成功しているように見えようと)自分が自分を愛せないこと」「果てしない欲望の果て」こそが主題だから。
男とディナーに行く約束してメイクや服をあれでもないこれでもないと変えて結局行かない場面はこの監督だからできたんじゃないか。男の監督だとあの場面を入れたとしてももっと短くすると思う。
え、年齢考えたら充分綺麗でしょ!来てくれた〜って喜ぶ男いくらでもいるでしょ!行かないんだ…と観客に思わせる為のこの展開は今作のハイライトの一つだと思う。
心理サスペンスかと思ったら予想以上にちゃんとしたホラーだった。しかもちゃんと積み重ねてやるタイプの。
序盤から結構気持ち悪いカットが多く意図的に緊張感と気持ち悪さを積み重ねている。
口や目元などパーツのアップが多く、この映画がそういった顔、身体に関する内容であることを序盤からこれでもかと示す。
「顔の全てのパーツがあるべき場所にある」的な審査員男のセリフをふりにすることでモンスターになった際の全てのパーツの異常さを際立たせる。
気に入らなかった候補者に対しての「鼻のところにオッパイがあったらいいのにな」という審査員の言葉すら伏線になっておりモンスターになり鼻らしき場所から乳房を落とすというグロカットを入れる。
最初のカットが目玉焼きに注射を打ったら目玉が2つになり、これから主人公のエリザベス・スパークルに起こることを暗示させている。
背中から分身が出てくるという絵面がまず面白いし、母体も分身も割と雑な保管方法なのも面白かった。
冒頭にわざわざエリザベスの名前が入ったスターのプレートが作られもてはやされやがて忘れさられる過程を固定ポジションで見せている。これにより主人公がどんな人物でどんな人生を歩んできたのか観客に理解させて。しかもわざわざケチャップとともにフードを落とした人のカットまで入れて「血と肉が落ちる」暗示までしている。
さらにはラストでモンスター化した体が朽ち果て、最後のひと頑張りで顔だけモンスターになったエリザベスがはってわざわざスターに重なり最後を迎えるというカットまで用意する徹底ぶり。主人公はずっと輝くスターでありたかったと。
ラストのモンスターになってからが意外と長くこれが142分の上映時間になった原因の一つだとは思う。まあ監督としてはこのラストこそがやりたい展開だったのだろう。
新宿の観客はノリがいいからモンスターがポスターを顔につける場面やアクセサリーを顔とも言いにくい顔につける場所でもちょいちょい笑いが起きていた。さすがコメディかホラーを観るなら新宿か池袋という傾向は間違いなかった。
個人的にはもう20分短くして120分以内におさめて欲しかったけれど、監督が表現したいことを全て入れる為にはあの時間が必要だったのだろう。
あんなしょうもないエアロビ番組をあんなにオシャレに演出することができるってかなりのセンスで、個人的にはラストまでずっとスタイリッシュな感じの映画でいて欲しかった。あんなにグロくB級ホラーにする必要あるのかとは思った。
でもあれだけステージの上で血しぶき飛ばしまくって、観客の女の子にまで血しぶきぶっかけてオシャレな廊下も輝かしい自分のポスターも血しぶきで汚して。
何もかも台無しにして悲しい最後をむかえるからこそ、心に残る映画になったのだと思う。