「アニーの豊かな表情は一見の価値あり」ANORA アノーラ ihatakaeightさんの映画レビュー(感想・評価)
アニーの豊かな表情は一見の価値あり
ニューヨークでストリップダンサーとして生きるアニーことアノーラ。店の客で来たロシア人富豪の息子と数日の契約彼女ののち、衝動的に結婚。周囲の猛反発に奮闘するアニーを描いたドラマ。
この映画はR18だ。エロくないセックスシーンが前半にわんさか出てくるので、事前に覚悟した方が良い。しかし、この乾燥感漂う前半は、途中からアニーのキャラが立ってくるのに役立つのでご安心を。監督は「レッド・ロケット」のショーン・ベイカーだ。なるほどクセが強いはずだ。予告編で想像できるような在り来たりなストーリのはず、なのだが、展開の妙とでも云うのか、観ていて飽きさせない。
音楽とカットもスタイリッシュだ。ナイトクラブ、豪邸でのパーティ、ラスベガス、ニューヨークの夜の街、と話の筋とシーンの使い分けてテンポが良い。
また、本作は、極端なアンバランスを描いて物語に緩急をつけている。セックスワーカーvsググれば名が出る富豪の息子、アニー1人vs放蕩息子取り巻き達、共同生活のアパートvs豪邸、オンボロ車vs高級車、これがこの世界の現実である事を否応なしに見せつけられる。
そして見所は、なんといってもキャストが抜群に良い。
まず主人公アニー役マイキー・マディソンは、正に体を張った演技で、嫌味がない。遠巻きで観ても映える立ち居振る舞いだ。
中でも特筆すべきは、アニーの真顔だ。ストーリのポイントで、彼女は真顔でちょっと考える表情をする。観る者に彼女の心理を想像するタイミングを作るのだ。これがなんとも良い顔だ。ベットで放蕩息子と結婚の話をする時、彼女は一瞬真顔になった。社会の下層で生きる彼女は、目の前の男の力量と性格はどの程度か把握できているはずだ。「ワンチャン、でも、この先こうなるだろう」と予測しているように見えた。ただ、現実の物語は彼女のささやかな賭けを超越する展開になるのだが…
ロシアの富豪の息子イヴァン役マーク・エイデルシュテインも良かった。イケメンだが、私が親なら彼の判断など容易には認めないだろう。それくらいの放蕩息子を演じている、見事。
クセが強い映画なので、好き嫌いはわりとあるかもしれませんが、物語の展開に沿ったアニーの豊かな表情は一見の価値ありです。ぜひ映画館の大画面でご鑑賞ください。
>ストーリのポイントで、彼女は真顔でちょっと考える表情をする。観る者に彼女の心理を想像するタイミングを作るのだ。これがなんとも良い顔だ。ベットで放蕩息子と結婚の話をする時、彼女は一瞬真顔になった。社会の下層で生きる彼女は、目の前の男の力量と性格はどの程度か把握できているはずだ。「ワンチャン、でも、この先こうなるだろう」と予測しているように見えた。
ああ、これだ!
彼女の些細な表情や仕草を見逃さず、見事に言語化されましたこと、感服いたしました。