「子供と“大人未満な大人”の寓話ジュブナイル」バード ここから羽ばたく regencyさんの映画レビュー(感想・評価)
子供と“大人未満な大人”の寓話ジュブナイル
イギリスの小さな町で暮らす12歳の少女ベイリーが、偶然知り合った謎の男バードの両親を捜す手伝いをする事に…
劣悪な公営住宅に住み、全身に昆虫のタトゥーを纏った父バグ(虫)はヒキガエルの分泌液を原料にしたドラッグ販売で一旗揚げようと企む一方で、何の相談も無しに再婚しようとしている。異母兄ハンターはビジランテ(自警団)活動に明け暮れれば、バグと別れた実母は間男からのDVに苦しんでいる…と、ベイリーを取り巻く環境はとにかく荒んでいる。登場人物全員が話すイギリス英語の訛りのキツさが、その荒み具合により拍車をかけている。
そんな環境から飛び立ちたいとばかりに鳥や虫など翼や羽を持つ生物の動画を見る日々のベイリーと、奇妙な男バードとの邂逅というストーリー自体はジュブナイルものの雛形だが、子供なのはベイリーだけではない点が本作の肝だと思う。無垢さを持つバードや勢い任せに生きるバグ、そして恋人との生活を望むハンターなど、彼女の周辺人物は“大人未満の大人”ばかり。でもバードは知り合って間もない友人を温かく包み、バグは不器用ながらも決して子育てを放棄しようとせず、ハンターもまたそんな父のようになろうとする。大人の道を歩むのはベイリーだけではないのだ。おそらくベイリーの家族は順風満帆とはいかないだろう。それでもラストでの、彼女にかけるバードの一言は重みがある。
演技経験ほぼゼロというベイリー役のニキヤ・アダムズは勿論の事、バグ役のバリー・コーガン(『グラディエーターII』のオファーを断ってまで出演したとか)、バード役のフランツ・ロゴフスキなど、キャスティングの妙も光る。
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