「お前らが言うなッ!!!!!」傲慢と善良 サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)
お前らが言うなッ!!!!!
昨年話題になりました、辻村深月による同名大ベストセラー小説の映画化でございます。
本当はこんだけ話題になったわけだし、しっかり原作を読んだ上で臨もうも思っていたのだけど、かなり好き嫌いの分かれるタイプの作品らしく、そのうえ読んだ人の感想を聞いた限り、とても自分が好むようなものではなく、むしろチョー苦手なタイプの物語だったから、結局見らず、一先ず映画からと思い鑑賞。ただまぁ、90パーセントの確率で自分が受け入れられないだろう映画を見るのはなかなかキツイもので、期待値はあまりに低かった。というか、自ら下げきっていた。
そんなこんなでの映画だったわけだが、一寸たりとも期待していなかったおかげか、意外にも悪くないと思える作品で、恋愛観とか結婚に対する向き合い方とか、ストーリーに共感は全くと言っていいほど出来なかったんだけど、「ブルーピリオド」の萩原監督による演出はやはり確かなもので、映像作品としてはなかなかいいものだった。
原作からどれほど改編されているのかは読んでない自分には解説しようがないけれど、少なくとも監督は本気で向き合っているように伺えたし、映像や全体的な空気感なんかは辻村深月だなぁと、上手く言語が出来ないけどそう感じさせるものがあって作りはしっかりしていた。
ただやはり、価値観に共感できないというのが高評価にならない一番の理由で、婚活アプリどころか婚活そのものをしたことがないから境遇がかけ離れているのは大きいけど、自分ならこんなことにはならないだろうなぁと思ったし、全編すごく客観的に見てしまった。どうしても主人公2人のことが好きにはなれないし、とてもじゃないけど理解し難い。なんでこうなるかが分からない。
そもそも登場人物が2時間に収めるにしては無駄に多くて、原作ではキーパーソンとなっていただろう人物もこれといった活躍がなく、結果的に要らない余計な存在になってしまっている。それであんた、何がしたかったの?何が言いたかったの?
あと、話に関係ないっちゃないんだけど、架の女友達がはらわた煮えくり返るほどイッライラする奴で、もういてもたってもいられなくなった。いや結局居たんだけど。そう思わせるってことは演じた2人の演技も演出も上手いってことだから、まんまと監督の思惑通り、手のひらの上で転がされているわけなんだけど、とても同じ人間とは思えない所業で、映画であることを忘れてしまうほどストレスが溜まってしまった。なんかでも、原作は多分こんな風に描かれていないはずだし、こうなっちゃうと結末での感じ方が結構変わっちゃうんだよね。いちばん傲慢なのはお前らじゃん、って話になるもの。
しかしながら、奈緒の演技には「先生の白い嘘」に引き続き、今回もまた魅せられてしまった。真実(マミ)に関しては奈緒の迫真の演技のおかげで、原作よりも深みのあるキャラになっているんじゃないかと推測できる。やっぱりすごい女優。
ただ一方で、藤ヶ谷太輔はダブル主演とは言いながらも、出演バランスが6:4か7:3くらいだったこともあり、奈緒に比べるとあまりインパクトは残らなかった。脚本もかなり真実に寄ったものになっていて、架の傲慢っぷりはさほど描かれておらず、藤ヶ谷太輔も限られた中ではよくやったと思うけどあまりクズ男感がなくて、役者としてはまだまだこれからだなと。だけど、この人が普段めちゃくちゃ優しくていい人だってことは、この映画を見てすごく感じたけどね笑
「傲慢と善良」というタイトルにも関わらず、傲慢描写と善良描写に差が生まれてしまっているのも、本作の問題点。しかも傲慢→善良→傲慢→善良と、2往復くらいしかしないから結構単調でタイトル回収し切れていないように感じてしまう。
そもそも現代の恋愛観を問うみたいな、かなり壮大で壮絶なものをテーマにしているってのに、結局行き着くところはそこかい!とげんなりしてしまう。ネタバレになるので明言は避けるが、やはりタイトルは最初から最後まできちんと活かして欲しかった。こういう恋愛がしたいよね、結婚観でいたいよね、みたいなそういう雰囲気は別に求めてないし、後半にかけては特に色々と納得できないところが多すぎる。
映像的な部分や奈緒を中心とした俳優陣の熱演、そしてバッチリ合っているなとりの主題歌などなど、個人的にいいなと思えるところは多かったし、不満大爆発みたいなそういうことは全くなかったんだけど、結果的に自分がこの作品で評価しているところって、映画になったから生まれた部分であって、元々この「傲慢と善良」という作品が持っていたストーリーやメッセージについては全然ハマれなかったし、総じてこのくらいの点数しか上げられないと思ってしまった。それでも期待していたよりは良かったけどね。
ただまぁ、冒頭でも書いたようにそもそも原作が好き嫌いハッキリ分かれる作品だから、本作を大好きだと思える人もいれば、自分のように受け入れられない人もいるはず。恋愛観、価値観に着いての話だからこんな風に感想に差が出るのは当たり前。たまたま自分は理解できなかったよってだけで、同じ境遇にある人、または経験したことのある人なら頷き疲れるほど共感するのだろう。
そういった観点からも一度見て欲しい。そして、この映画を見てどんな感想を抱くのか。それで結構自分がどんなことを考えて生きているのか、なんとなくでも分かるはず。そんな風に考え、そう考えることを狙っているのであれば、すごく意義のある素晴らしい作品なのかもしれない。と、思ったけど、やっぱり自分は無理だな、この2人。
以下、若干のネタバレあり⚠️
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〜余談〜 ちょいネタバレ注意⚠️
ここからはレビューでもなんでもないけど、自分が監督ならあのラストにもうひとカット追加したかった。それは、植え替えた植物のカット。根の枯れた植物を植え替えるという行為は、人間からすると善良な心を持ってしていることなのだと思うけど、俯瞰的に見れば命のサイクルを崩しているとも言えることで、そこで無理くり救出しようとするのは、植物からしてみれば人間の傲慢と捉えられる。
まさに、この作品はそんなようなことの繰り返しで、「あなたのことを思って!」だとか「あの子は善良なんです!」だとか言って、結局高く評価しているのは自分自身。善良な心でいる自分は、なんて素晴らしいんだろうと棚に上げるこの一連の行為こそ、傲慢な心である。だから、ラストには植え替えた植物をクローズアップして欲しかった。これは余談でしかないので、通りすがりの戯言だと思って聞き流してください。