フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーンのレビュー・感想・評価
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フェイクと真実の行き着くところ
見果てぬ夢と浪漫を求めて、無限に広がる大宇宙へ――などというのは、やはり夢物語でしょうか。何かを為すにはお金がかかる現代社会。社会主義の旧ソ連では、その苦労は皆無なのでしょうか。資本主義ならでは、費用の工面も一苦労。
そんな気苦労とジレンマが描かれた、とても面白い映画でした。当時の記事を躍動させるなど、映像的にも凝っていた。実は私、月面着陸の頃合いの生まれ年で見てないけれど、打ち上げシーンの観衆の様子から管制塔?の人の動きまで実にリアル。当時の本物の映像も用いられていたのでしょうか。咥え煙草のスタッフの姿に時代を感じる。
映画の在り方として、とても面白い。「カメラを止めるな」っていう映画の、映画の撮影の、それを撮影する映画のその映画、なんていう幾十にも「フェイク」を重ねた構図だったけど、これも当時の月面シーンの、それを「フェイク」しようとしたエピソードを、映画として「フェイク」したというわけで。
最初に見せた黒猫の伏線回収とか、基本的な映画の楽しさも満載。飛行機のシーンで「Trust Me?」っていうアラジンの台詞。これはフェイクじゃなくてパロディというのかオマージュなのか。
さて、肝心の「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」、どこでその名曲を聴かせるかと思ったら、ラスボス?の彼が口ずさみながら去って行くとは、とても小粋な使い方でした。この名曲、いろんな人がいろんなアレンジで歌われているけど、自分のフェイバリットは「エヴァンゲリオン」。“綾波レイ”林原めぐみさんの本気の「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」が大好きです。
陰謀論をイジってぶっ飛ばす
アポロは月に行っていない、という俗説を逆手に取ったライトなコメディ。アポロ計画はもちろん実際に月に行くプロジェクトとして描かれるが(NASAの協力も得ているので当たり前)、万が一の時のために月面着陸のフェイク映像を準備しておこうかというフィクションを挟んで、陰謀論を笑いのネタに仕立てている。
政府関係者であるモーは何故、フェイク映像なんてものを作ろうと画策したのか。
スプートニク・ショックをもたらしたソ連に対抗しようと国力誇示に躍起になったアメリカ、1961年のケネディ大統領の宣言(「この60年代が終わるまでに人間を月に着陸させ、安全に地球に帰還させる」)、その後のアポロ1号の悲劇。泥沼のベトナム戦争への反感からくる国民の国への不信感。そんな時代の空気の中で、アポロ11号の月面着陸はまさに、絶対に負けられない闘いだった。
こうしてリアルな事情を振り返ってみると、そりゃフェイク映像の準備くらいはしておきたくなるわなあなんて、妙にモーの動機が生々しく見えてきたりする。それが図らずも陰謀論の育つ土壌になった。
そんな生々しさとのバランスを取るためか、物語のリアリティラインは低めだ。
ケリーはやり手と言うよりも、偽名で活動する詐欺師に片足突っ込んだような怪しげなやり口のマーケター。そんな彼女をNASAの中枢に入れて極秘任務に関わらせるところや、アポロに搭載するカメラを改造する部品調達のために、発射直前に電機店に侵入するくだりなどは、「フェイク映像制作の部分は全くのフィクションなんですよ」と強調するかのようなちょっとありえない展開だ。
こういう遊んだ展開のところでもうちょっと大笑いしたかったのだが、どかんと笑える場面はあまりなかった。
それと、ケリーとコールのラブストーリーもちょっと大味で、あまり刺さってこなかった。ケリーは嘘を操る人間なので(モーがケリーの弱みを握ったというのがフェイク協力のきっかけだったから、話の流れ上仕方ないのだが)、最後に改心仕草をされてもちょっとだけ眉唾になってしまうんだよなあ……でもまあ、そんなに生真面目に考えるような映画じゃないか……美男美女がくっついたからそれでよし。
モーを演じたウッディ・ハレルソンがよかった。怪しくて、軽やかで明るくて。ガタイのいいチャニング・テイタムとスタイル抜群なスカーレット・ヨハンソンのアメリカン・カップルぶりはなかなかの迫力だった。
キーパーソンならぬキーアニマルとして登場した黒猫は楽しかったし、アポロ11号打ち上げにまつわる映像の臨場感は見応えがあった。
不吉な黒猫シーンは場面に応じ3匹の猫を使って、CGなしで撮影したそうだ。クライマックスで、月面セットでの撮影を荒らしまくるシーンを演じたヒッコリーという猫ちゃんはなかなかの芸達者。もっとアップで見たかった。
格納庫から発射台に運ばれるロケットの姿や打ち上げの瞬間は、その迫力に引き込まれた。テレビ中継の画面など、当時の実際の映像を織り交ぜていたように見えた。パンフレットには、アーカイブ映像を組み込んだとの記述がある。
NASAの協力を受ける過程で、アポロ計画時代の膨大な未公開映像にアクセスできたそうだ。リアル映像の説得力もあいまってか、打ち上げの瞬間や空高く飛んでゆくロケットを見守る管制室の様子などから、当時の現地の人々の気持ちが伝わってくるようで、なんだかわくわくした。
ところで、フェイク映像制作のくだりで名前があがったキューブリックだが、「ムーweb」の記事によると(あの「ムー」です)、2002年にフランスで製作されたモキュメンタリー「ダークサイド・オブ・ザ・ムーン」において、彼がCIAに協力して月面着陸のフェイク映像を制作したという説が提唱されて以来、彼の名前は20年以上「月面着陸の事実はなかった」陰謀論と表裏一体のような形で認識されてきたそうだ。
映画「シャイニング」を検証するという主旨の2012年のドキュメンタリー「ルーム237」でもその説に触れる箇所があり、娘のビビアン・キューブリックが陰謀論についてSNSで「グロテスクな嘘」と声明を出すにいたっている。
「2001年宇宙の旅」の完成度の高さから湧いたであろうこういったキューブリックの「疑惑」も、本作はネタに昇華させた。
映画制作サイドはこのように陰謀論を笑い飛ばすが、全面協力したNASAは結構真面目に俗説の完全な火消しを狙っていたかもしれないと想像したりする。
フェイク映像放送を画策したとしてもおかしくないほどアポロ計画は困難なミッションであり、だからこそそれを実現した当時の関係者へのNASAのリスペクトが半端ないことは間違いないからだ。
ありえたかもしれない歴史の裏側と二人の小気味良い恋愛模様を楽しむ
NASAの命運を賭けた月面着陸計画の裏側で何が起こっていたのか。同様の内容はルパート・グリント主演の『ムーンウォーカーズ』や、ピーター・ハイアムズ監督作『カプリコン・1』(ただしこちらは火星着陸)でも描かれたのを思い出す。宇宙計画にまつわる歴史ドラマをフィクション込みで楽しみ、なおかつ壮観なロケット発射シーンを仰ぎ見るのは実に豊かな映像体験だし、二人の芸達者らが小気味よく織りなす恋愛模様も味わい深い。と、一方で満足しつつ、他方でやや雑多な要素を詰め込みすぎて十分に消化し切れていない印象も受けた。ケリーの過去などわずかなディテールしか与えられずに終わる部分もある。そして何より終盤にアポロがいざ月へ向かう見せ場を前にすると、観る側の気持ちは完全にそちら側へ持っていかれ、陰謀論(事実か否かに関わらず)が蛇足に思えてくる。結果、序盤のワクワクはやや遠のき、私の中ではごく平均的な仕上がりに留まった。
ウェルメイドの魅力と限界。
月面着陸の陰謀論を肴に、オールドファッションなラブコメを絡めた「はたらくひとたち」への讃歌を描く。なんとも魅力的な企画だし、一定のラインはキープできていると思う。ただ、キャラクターが弾けていないというか、予定調和を超えてくるほどの魅力を引き出せていない。それが脚本なのか、演出なのか、演技のせいなのかは判別がつかないところはあるが、政府の裏仕事を請け負うフィクサーを演じたウディ・ハレルソンの愛嬌と強さが入り混じった演技を観る限り、俳優のせいではないのではないか。ウェルメイドを目指しているにしても、進取の気性や枠からはみだす冒険心があってこそウェルメイドは光るのだと思っていて、カタルシスは感じつつも物足りなさはある、しかし、制作陣が陰謀論を扱っているせいでNASAの協力は得られないかも、と思っていたら、脚本を読んだNASAが大いに気に入ってくれた、という宣伝資料にあった裏話は、とてもいい話だと思う。
ハリウッド映画愛に溢れる月面着陸の裏ドラマ
米ソ間の宇宙計画が鎬を削る1969年。失敗続きのNASAか仕掛けたトンデモな作戦と、それに関わった人々の運命を描く。1969年と言えば、アポロ11号が月面に着陸し、アームストロング船長が例の名台詞を残したまさに同じ年。それが今も多くの人々の記憶の片隅にあるので、歴史的事実を物語にどう反映させているかが本作の肝だ。
結論から言えば、なるほどこう来るか!?という印象だ。アメリカ政府のメンツが優先されるかと思いきや、どっこい、打ち上げに関わった現場スタッフの意地がそれを上回る。そのへん、なかなかよく出来た脚本だと思う。スカーレット・ヨハンソン演じるNASAのPR担当のバックグラウンドと、チャニング・テイタム扮する発射責任者の実直すぎるキャラ設定も、見ていて不自然さは感じない。製作も兼任するヨハンソンは久々のハマり役。本人もこんな役を演じてみたかったのではないだろうか。
これを見てすぐに思い浮かぶのが、人類初の火星探査船の打ち上げに失敗したNASAが、3人のパイロットを地上のスタジオに閉じ込め、そこで偽物の宇宙旅行を演じさせる『カプリコン・1』('77年)。今も根強い"アポロ11号は月に行っていない説"の元ネタになった映画だ。
でも、シナトラのヒット曲がタイトルになっているように、後味はラブロマンスの風味も加わってほっこり、しっとり。フェイクという生臭いテーマを扱いながら、根底にハリウッド映画ヘの愛を感じさせて好印象だ。
アポロ計画陰謀論と映画の“蜜月”は続く
タイトルの元ネタは、フランク・シナトラがカバーして大ヒットしたことでも知られるジャズのスタンダードナンバー『Fly Me to the Moon』。軽快だが憂いも帯びた名曲の上品さに負けず劣らず、映画「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」の着想は洒落っ気があってちょっと泣かせる。「人類初の月面着陸は捏造だった」とする陰謀論を題材にした映画はこれまでにも何本かあったが、本作は一味違う。初の月面着陸を成功させようとするNASAスタッフたちの真摯な努力に、雇われパブリシストに命じられた月面着陸のフェイク映像を作る裏ミッションがからみ、お仕事ドラマとロマコメの味付けで王道の娯楽映画に仕上がっているのが嬉しい驚きだ。
詳しい人には説明不要だろうが、月着陸と陰謀論と関連する映画の歴史を簡単に振り返ってみたい。1961年、当時のケネディ米大統領が1960年代中に人類を月に到達させると宣言。1969年7月にアポロ11号で実現するのは本作でも描かれている通りだが、その1年前に公開されたスタンリー・キューブリック監督作「2001年宇宙の旅」には月面での基地とモノリス調査のリアルなシーンが収められていた。陰謀論自体は70年代半ばから出始めたようだが、転機は1977年の映画「カプリコン・1」。有人火星宇宙船カプリコン1が打ち上げ直前に故障したため、大掛かりなセットからのインチキ映像で成功をでっち上げるという内容が、「フィクションを装ってアポロ月着陸の捏造を暗に告発した」とする解釈を生み、この陰謀論が広く知られるのに一役買った。2011年の「トランスフォーマー ダークサイド・ムーン」は、NASAが月着陸で地球外生命体の証拠を得たが隠蔽したとする別バージョンの陰謀論をストーリーに組み込んだ。そして2015年の「ムーン・ウォーカーズ」は、米政府から秘密裏に依頼されたキューブリックが月着陸のフェイク映像を制作したとする陰謀論の一説をベースにしたブラックコメディだった。
映画「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」の話に戻すと、主人公の2人、NASAのPR担当として雇われたケリー(スカーレット・ヨハンソン)と発射責任者のコール(チャニング・テイタム)は架空のキャラクターだが、アポロ11号の準備とマーケティングのかなりの部分は史実に沿っている。本作で初の映画脚本を手がけたローズ・ギルロイ(父親は『ナイトクローラー』監督・脚本のダン・ギルロイ)は、デイヴィッド・ミーアマン・スコットの著書『月をマーケティングする アポロ計画と史上最大の広報作戦』を参考にし、ジャーナリストからNASAの広報官に転身したジュリアン・シェア(男性)をケリーのモデルにしたことを明かしている。また、コールのモデルになったのは、アポロ計画に先立つマーキュリー計画で選抜された宇宙飛行士7人の1人だったドナルド・スレイトン。スレイトンは心臓疾患のため同計画の飛行士から外され、マーキュリー、ジェミニ、アポロの3つの計画を通じて飛行士運用を管理する役職を務めた。劇中でも描かれるアポロ1号の事故で死亡した飛行士3人のうちの1人はスレイトンの親友だったという。
こうしてみると、アポロ計画に関する相当部分を史実に基づきつつ、月着陸に関する陰謀論を巧みに継ぎ足して、宇宙開発のロマンと働く男女のロマンス、それに陰謀をめぐるスリルを軽妙にからめた娯楽作に仕上げたことに感心させられる。
BGMについても一点。「小さな恋のメロディ」でも使用されていたビージーズの『To Love Somebody』がロマンチックなシーンで流れて最高でした。
1960年代のリアルさ
月面着陸という寓話
人類の月面着陸の話題を逆手に取った物語としてる点はとても面白く感じた。
真実と寓話?を上手く織り交ぜて描き、2人の関係性を恋愛とコメディ要素を含ませることで寓話の欠点を上手く隠すといった点は良かったです。
この時代のアメリカン・ファッションも見応えの1969年のNASAが...
こういうのを作らすとアメリカ映画は上手い
1 アポロ11号計画を担った現場の労苦と国をあげての騒動を一組の男女を通して描く。
2 封切時に見逃していたところ二番館で見る機会を得た。 歴史的事実として公式発表では、この計画は成功し、人類が初めて月面に立ったことは知っている。また、月面はスタジオでの撮影を流したもので、実際は月には行っていないというでっちあげ説があるのも知っている。なので、一つの史実を映画的にどのように処理されたかを興味をもって見た。
3 物語は、NASAの発射責任者のテイタムと広報責任者のヨハンソンが主人公。テイタムはアポロ計画の当初から係わり、予算確保の困難や飛行士の死亡事故も経験。一本気で責任感がある。ヨハンソンは口先三寸で生きてきた。後ろ暗い過去を持つが、ビジネスで成功を収め、政府からスカウトされた。ヨハンソンは、アポロ11号の計画を各方面に売り込み社会現象を呼び起こすとともに、月面着陸を全世界に中継させた。その裏で、政府は、国家の威信を保つため、月面を模したスタジオで俳優に演技をさせ、そちらを放送させようとした。果たして双方の計画の行方は・・・。
4 本作におけるNASA側の描写は、テイタムを中心にシリアスに徹し、現場の臨場感と高揚感を伝えた。一方、明らかな男社会であるNASAの中で、ヨハンソンは異質な存在。実在のモデルがいたのかは不明であるが、彼女の情報発信能力や柔軟な機転でNASAに貢献した。この硬軟違いの二人のやり取りは良いアクセントになったが、恋愛に発展するのは、表題曲を意識したのかも知れないが、無くても良かった。でっちあげの場面は、スタジオでの人物の動きと飛行士の音声が上手くシンクロできるか疑問に思った。東西冷戦やベトナム戦争などの時代背景をニュース映像などを上手く使っていた。神出鬼没の政府関係者もさもありなんと思わせた。
5 月は人類にとって古来より身近でありながら神秘的な存在であった。そこに人が到達するのは、一つの夢であり、アポロ11号はそれを実現した。劇中、仮想敵国が月に基地を造りレーザー光線を地球にむけて発射する漫画があったが、そんなことが起こらないことを祈りたい。
軽快なコンゲーム要素が強く、スカーレット・ヨハンソンがとてもチャーミングにPRマーケティングのプロ(詐欺師)を演じておりますね。
早稲田松竹さんにてスカーレット・ヨハンソン、チャニング・テイタム出演『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』(2024)を鑑賞。
『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』(2024)
「アポロ計画陰謀論・捏造説」をベースにしたロマンティック・コメディ。
アポロ計画捏造説の代表作といえば、劇中では有人火星探査の設定にしておりますがピーター・ハイアムズ監督・脚本の『カプリコン・1』(1978)が真っ先に思い浮べますね。ジェリー・ゴールドスミスの荘厳な劇伴が印象的な荒唐無稽なポリティカルサスペンスでわたしも大のお気に入りですが、本作は一転してジョージ・ロイ・ヒル監督の名作『スティング』(1973)のような軽快なコンゲーム要素が強く、スカーレット・ヨハンソンがとてもチャーミングにPRマーケティングのプロ(詐欺師)を演じておりますね。
月面着陸にまつわるあのウワサをポップに検証?
ごきげん映画!
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