「ハヌマーン神話をノワールバイオレンス風味で」モンキーマン つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
ハヌマーン神話をノワールバイオレンス風味で
デーヴ・パテル監督・脚本・主演で超絶アクションと聞けは観に行かざるを得ないだろう。なんかほっこり系のイメージを持つ彼がノワール・バイオレンス・アクションを撮る、というのも興味津々だし、とにかく予告がワクワクしたぜ。
ちなみに、この映画の中のインドは架空のインドなので、別に社会派を狙って撮ってるわけじゃないだろう。インド版ゴッサム・シティだと思うと良い。
で、本編はというと、予告のワクワクにお釣りが来るほどの最高アクションの連発!だった。
なにせ監督本人が「ジョン・ウィック」や「ザ・レイド」に影響を受けたと公言しているのだ、ネオンに照らされたピンクとブルーの照明や、エレベーターからとにかく大量に出て来る敵など、テンションの高まるシーンの多いこと!
その他、トニー・スコットやマイケル・マン、ニコラス・ウィンディング・レフンからの影響も感じる、とにかくやりたい事と撮りたい絵のオンパレードで、こだわりにこだわり抜いた「この1本に賭ける愛」をビンビンに感じた。
そういう映画は、観ている方の心も熱くさせる。
ストーリーはリベンジもの、という事になっているが、それはちょっと違うと思う。
この映画の真のテーマは「神」だ。
物語の序盤、闇の闘技場でタイガーが言う。「ムスリム、ヒンドゥー教、隠れキリシタンもいるかも知れないが、ここで皆が信じているのはインド・ルピーだ!」と。
それは主人公の村を焼くことになった経緯も、その黒幕でもある導師・シャクティも、村を焼いた張本人、警察署長のラナも、ナイトクラブのオーナー・クイーニーも皆同じである。
この世に君臨する絶対神が金、というのはなんとも世知辛いじゃないか。この世で一番大事なものが金だなんて、なんとも虚しいじゃないか。
それが後半、一気に変化する。闘技場に再び現れたモンキーマンは、やられ役・悪役であることを辞め王者キングコングを倒し、ブーイングを浴びる。それが続いて相手を倒すと、一転モンキーマン・コールが起きるのだ。ここの流れはかなり強引でもあるけど、金が絶対神じゃなくなる瞬間であり、金に縛られ操られる世界にひび割れが走った瞬間でもあるのだ。
ではモンキーマンこと主人公(一度も名前は呼ばれないが、役名はキッドである)の「神」とは何なのだろう?
最後に対峙したシャクティの命乞いに、彼は「許せるのは神だけだ」と言い放ち、とどめを刺す。
薄れゆく意識の中で、思い出すのは母の笑顔。彼にとっての神は母であり、母への愛と献身こそがモンキーマンの戦士としての本質なのだ。
ここまでずっと「神」と表記してきたが、映画のセリフは「バグワン」でもっと概念的に「神聖な存在」という意味だそうな。
心の中の神聖なものを支えに、闘うと決めた男の壮絶な勝利。アクション映画に欠けがちな「何で闘ってんの?」の部分に一本筋が通った快作だ。
ちなみに「許せるのは神だけだ」はレフン監督作「オンリー・ゴッド」の原題でもある。エレベーターの扉が開いた時の、シンメトリーと赤と黒のコントラストも相まって、レフンファンとしてはイチオシのシーンだったなぁ。
数々のアクション映画に思いを馳せつつ、こんな面白いなら監督2作目も観に行こうと心に決めた。新作公開が楽しみな監督が増えたのは望外の喜びであることよ。