「用もないのにガン見したら、10人に1人ぐらいは殴ってきそうな気がしますね」またヴィンセントは襲われる Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
用もないのにガン見したら、10人に1人ぐらいは殴ってきそうな気がしますね
2024.5.16 字幕 アップリンク京都
2023年のフランス映画(109分、G)
ある日当然、目が合っただけで襲われ続け始めた男を描いた不条理スリラー映画
監督はステファン・カスタン
脚本はマチュー・ナールト&ドミニク・ポーマール&ステファン・カスタン
原題は『Vincent doit mourir』、英題は『Vincent Must Die』で、「ヴィンセントは死なねばならぬ」という意味
物語の舞台はフランスのリヨン
そこでグラフィックデザイナーとして活躍しているヴィンセントことヴァンサン・ボレル(カリム・ルクルー)は、ある日目が合っただけでインターンのユーゴ(Ulysse Genevrey)から殴られてしまう
同僚たちが力づくで止め、それ以上の騒ぎにならなかったが、今度は経理部のイヴ(エマニュエル・ベリーテ)から攻撃を受けてしまった
気が狂ったかのようにペンで滅多刺しにしてくるイヴだったが、ユーゴ同様に暴力を振るっていた時の記憶は欠落していた
人事部のアレックス(ジャン=レミ・シャイーゼ)が仲裁し、告訴に至ることはなかったが、理由が判明しないため、モヤモヤしたまま1日を過ごすことになった
上司のライオネル(セバスティン・シャバネ)からは「在宅勤務」を言い渡され、ヴァンサンはやむを得ずにその命令に従うことになった
その後、ヴァンサンは至る所で他人の目が気になり、食料を買い込んで籠城することになった
荷物が届いたら庭先に置かせ、外食もまとめて買い込んで、駐車場まで持って来させる
そんな折、ダイナーのウェイトレスのマルゴー・ラミー(ヴィマーラ・ポンズ)と出会ったヴァンサンは、なぜか彼女だけが攻撃して来ないことを不思議に思っていた
その後、交流を果たすことになったヴァンサンとマルゴーだったが、やはり身の危険は拭いきれない
そして、ある日を境にマルゴーまでが暴力的になり、ヴァンサンはやむを得ずに、彼女を手錠で縛りつけることになったのである
映画は、理由なく暴力を振るわれるヴァンサンを描き、その原因の特定には至らない結末を迎える
彼は自分の身の回りに起こったことを整理したりするものの、その答えには至らずに放置されている
途中で同じ境遇のジョアキムBD(ミヒャエル・ペレズ)から「謎のシェルターサイト」を教えてもらうものの、そこも胡散臭さが全開で、どうにも信用しきれない部分が残ってしまう
物語性はほぼ皆無で、状況を重ねることで一本のシナリオを作ったような構成になっている
感染症によるものか、ゾンビ化したのかはわからないものの、それでも愛する人と一緒にいるために無茶な旅を続けているように見える
それでも、出会って間もないウェイトレスにそこまで思い入れを持てるのかは疑問で、さらに「ヴァンサンがサングラスをつけようと考えない」ところに違和感が募った
対人関係においてサングラスで挨拶するのは御法度だとは思うが、状況を考えると着用を試した方が良いと思う
おそらくはサングラス越しでも目線が合えばアウトなのだと思うが、それを明確に示した方が良かったように思う
夜でも襲われるのかとか、太陽が出ている時は眩しすぎて攻撃に至らないのかなど、ほぼ物理的な説明というものも放棄されている
それゆえにモヤッとしたものが残るのだが、それにしてもほぼ全員が思いつきそうな対抗策すら講じないのは意味がわからないと感じた
いずれにせよ、不条理系スリラーとしてのワンアイデアは良いと思うが、そこから日常に設定を落とし込むのに失敗しているように思う
原因特定まで至る必要性はないが、ほぼほぼノープランで動き続ける主人公のマインドは理解し難いものがある
人間の攻撃性を特化させる条件があると思うのだが、彗星をはじめとした天体条件による異変なのか、動物の進化の先に起きているものなのかぐらいは匂わせても良かったように思う
最終的にはシェルターを見つけて安穏と暮らそうみたいなことになっているが、彼らに自給自足の生活ができるのかの未知数なので、そのあたりも微妙かなあと感じた