劇場公開日 2025年3月20日

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教皇選挙のレビュー・感想・評価

全637件中、141~160件目を表示

4.0驚異的な現実とのシンクロ! 法廷サスペンス×『薔薇の名前』の手法でコンクラーベを描く。

2025年5月20日
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鑑賞方法:映画館

やっぱり時節柄、これだけはさすがに観ておかないとね!!
いやあ、まさかマジで公開の真っ最中に、現実のコンクラーベとかち合うなんて!!
こんなこと、ホントにあるんだなあ。
てか、マーケティング部門、もしかして狙ってた??
この辺りで逝きそうだって、逆算して公開してたんならエラい。

本当は連休あたりのガチで「ドンピシャ」だった時期に観たかったんだけど、帰省したり、明けてすぐ仕事の詰めがあったりで、なかなか足を運べず今に至る。
(ちなみに部下は5月の連休に新婚旅行でイタリアに行ったけど、マジでサン・ピエトロ広場やシスティナ礼拝堂が封鎖されていて入れなかったらしいwww これぞ旅の忘れがたき思い出ですな。余談ですが、僕は25年前のやはり5月の連休に新婚旅行でヴァチカンを訪れ、システィナ礼拝堂の内部はツアーでしっかり実見している。代わりにミラノでメーデーにぶつかり、寺まで休んでしまって『最後の晩餐』が観られなかったw しょうがないので嫁を置いてひとりでエッチな映画館に行ったのは内緒。)

実は、『サブスタンス』を観る前日には既にレイトショーで観ていたのだが、あまりに『サブスタンス』が面白かったので、ついそちらの感想を先に書いちゃいました。
とはいえ、『教皇選挙』も、とても面白かった。
今年のアカデミー賞候補は、ほんと粒ぞろいだったんだね。

最近のアカデミー賞でオスカーを獲得する裏要件の一つとして、「人種問題」もしくは「ジェンダー問題」を扱っていることが必須条件であるような気がしているわけだが、あからさまにユダヤとアメリカの関係を問う『ブルータリズム』や、ロシアとアメリカの関係、および女性の性労働の問題を扱う『アノーラ』、バリバリのフェミニズム映画でもある『サブスタンス』と比べて、『教皇選挙』はそういった要素は若干薄いかな、と内心思ったりもしていた。
おじいちゃんしか出てこないし。
でも、いざ観てみたらびっくり。
中盤戦では、思った以上に「人種」と平等性の問題、あるいは聖職者の性搾取の問題を真正面から扱っているし、終盤戦では……以下、自粛。ああ、なるほど、そういうこともあって、きちんとこの映画もアカデミー賞候補に「ど真ん中から」あがってきたのね、とおおいに感心した次第。

あと、『サブスタンス』はフランス映画だけど、ハリウッドが舞台。
『教皇選挙』は英米合作の映画だけど、イタリアのヴァチカンが舞台。
そういや『ブルータリスト』はアメリカが舞台だけど、ハンガリーでロケしたらしい。
最近は、だんだん映画のプロダクションにおける国の境目が薄くなってきていて、結果としてアカデミー賞も、いろいろな国の映画が本賞を競い合うことが多くなってきている。

結局は、脚色賞しか獲れなかったようだけど、十分にアカデミー賞にふさわしい映画だったのではないでしょうか。

― ― ― ―

『教皇選挙』は、扱っているテーマこそ珍しい感じもするが、基本的には由緒正しい「法廷もの」のフォーマットを援用して作られている。

完全に隔離されたメンバーが、
投票によって合意を得られるまで
ひたすら投票し続ける。

これは、まさに「陪審員」制度の延長上に置かれうる「ルール」だ。
要するに『教皇選挙』は、投票の目的が「有罪/無罪の認定」か「次期教皇が誰か」と違うだけで、本質的には、シドニー・ルメットの『十二人の怒れる男』やクリント・イーストウッドの『陪審員12番』と同種のプロットを持つ映画なのだ。

監督本人は、アラン・J・パクラの70年代のポリティカル・スリラーが霊感源と述べている。その言葉が正しいなら、おそらくは『大統領の陰謀』(76)を意識して言っているはずで、たしかに「選挙の候補者の裏の顔を暴いて引きずり落とす」という意味では、両作品は似た構造を持っている。なお、アラン・J・パクラは、その後、法廷劇スリラーの佳作、『推定無罪』(91)を撮っている点にも留意したい。

なんにせよ、リーガル・サスペンスとしての枠組みを持つ以上、『教皇選挙』はリーガルもの特有の「弱み」をも併せ持つことになる。
ここで言う「弱み」とは、法廷劇で頻発する「後出し」の問題だ。
「密室」下で「すでに得ている情報を元に判断を下すこと」が、もともとの裁判もののキモであるはずなのに、実際には後から後から「新情報」が出てきて、「法廷(投票所)」に持ち込まれてくる。つまり、最初の評決の段階では「判断のための情報がもとより出そろっておらず」、後から提示される情報でどんどん評決の根拠も揺らいでいく、ということになる。これ(新証拠・新証人の登場)は、実際の裁判ではほとんどないシチュエーションであり、娯楽としての法廷ものならではの「ズル」と呼ぶべき仕掛けである。

本作でも、最初の投票で多数派が形成されなかったあと、教皇戦を左右する「マイナス情報」は、後からどんどん都合よく投入されてくる。
結局、物語構造としては、「過去の過ち」や「教皇に相応しくない行動」が露見して、バレた者から順番に落ちていくだけのお話になってしまっている点は否めない。
だんだん観ているうちに「単にろくなやつがいない」消去法の教皇戦にしか思えなくなってくるのは、さてどうなんでしょうか(笑)。

あと、主人公のローレンス枢機卿が、教皇選挙自体を仕切りながらも、自身にも被投票権があって、しかもどんどん当選確率が上がっていくのは、そんな制度でホントに大丈夫なのかと思わざるを得ない。
そもそも、これって延々とただ同じ投票行為を繰り返すだけの原始的なシステムで、足切りも決戦投票もない不思議な制度。これでよく今まで750年近く、無事に教皇を決められてきたもんだと素直に感心する。そんだけ枢機卿たちはみんなで、なんとなく空気を読み合ってきたってことか。自分が「少数派」だと判明したら、より多数派の教皇候補で信条的に乗り換え可能な勢力に、さっさと気を利かせて移っていくようにできている、ということなんだろうな。

なんにせよ、「固い」と思われた評決が、意外な事実の露見によってどんどんと覆っていく面白さは、まさに法廷サスペンスの読み味であり、その辺のクリシェをうまく「援用」していると思う。

― ― ― ―

「法廷サスペンス」要素と並んで、『教皇選挙』のミステリ性を支えているのは、「教会の探偵」としてのローレンス首席枢機卿の存在である。
彼は、いわば「苦悩する名探偵」として本作に君臨する。
役どころとしては、教会内の隠された内情を調査するという意味で、ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』に出てくるウィリアム修道士や、エリス・ピーターズの創造した修道士カドフェルのような立ち位置にある。
必ずしも推理を働かせて真相に迫るというわけではないが、新たに得た情報を分析し、必要な尋問を推し進め、何より「選挙の展開を調整して落としどころを付ける」役割を担っていて、これはまさに推理小説における「名探偵」の機能に他ならない。
『教皇選挙』の場合、少なくとも最初の二人の有力者は、疑惑を突きつけられただけで比較的簡単に白状&降参するので、ちょっと拍子抜けする部分もあるが、かといって三人目の有力者のように最後まで抵抗しても、疑惑を認めようが認めまいが「投票者の支持を喪って票が入らなくなる」ともうおしまいである。
「名探偵」としてのローレンス枢機卿の決断が、自らの内なる正義に問うというよりも、「亡くなった教皇が生前どう判断していたか」に常に依拠しているのはちょっと新鮮な感覚があるが、彼は「使命」に従って仕切っている立場である以上、そこはわからないでもない。

― ― ― ―

以上のように、本書はまずもって「法廷もの」と「名探偵もの」の要素を掛け合わせた「ミステリー」としての足場をしっかり保持している。
だがそれと同時に、「内幕もの」(バックヤードもの)として抜群に面白い点もまた強調されるべきだろう。
カトリックにおいて、「儀式」の秘儀性は重要だ。それこそがカトリックをプロテスタントと分ける最大のアイデンティティであるとすらいえる。
教皇選挙もまた、厚い秘密のヴェールに隠されたとびきりに「謎めいた」儀式であり、その中身を垣間見られるというだけでドキドキさせられるものがある。
儀式の手順や所作、ガチで使用されるラテン語、本物のミケランジェロ『最後の審判』の前での宣言、有名な「煙」を用いた外部への連絡。いやあ、面白い。

ふだんは普通の恰好をしている老人たちが、真っ赤なおべべを着て「権威」を身にまとい、発するラテン語の台詞まで決められた究極の「ロールプレイ」に挑んでいく姿は、どこか地域の祭事に臨むおじいちゃんたちにも似て、ほほえましい。
しょせん現代の俗世しか知らない老人たちが、必死で750年の歴史を背負って「それらしくやろう」とやっきになってあたふたしているのを、外から観察する面白さというか。

それにこいつら、カトリック界の頂点に君臨する者たちの最高位の選挙といいながら、過去の過ちがどうしたとか、相手を陥れるためにどうしたとか、やっていることがやけに世俗じみているうえに、あまりにしょぼくて、みみっちい。
だいたい、パンフには「メディアさえ立ち入りを禁じられ、外部からの介入や圧力を徹底的に遮断する選挙」と書いてあるけど、選挙期間中に外からもたらされた情報に右往左往してるし、思いっきりテロの影響受けてるし、正式の投票の場では結局何も決まらず、夜の秘密の追及劇や急遽開かれた野良会議でほぼ全てが左右されてるんだもん。ぶっちゃけ最後とか、明らかに「なりゆき」と「ノリ」だけで、超大事なこと(教皇)が決まっちゃってる気がするんだけど……大丈夫か?(笑)

― ― ― ―

以下、寸感。

●鳥瞰カメラで枢機卿たちの日傘が動いていくショットは、『シェルブールの雨傘』みたい。このあと『サブスタンス』でもシェルブール・オマージュと思しきオープニングに出くわし、あの映画の不思議な影響力を感じる。

●英米合作の映画でありながら、ヴィスコンティやベルトルッチを観ているような「イタリア」的な映像感覚が顕著で、イタリア映画好きの僕としては胸が躍った。枢機卿たちを象徴するカーマインレッドのインパクトと美観も、忘れがたい。チネチッタ・マジックか。

●レイフ・ファインズ以外、誰も知らない俳優ばっかりだなあと思っていたら、トランブレ枢機卿ってジョン・リスゴーだったのか!! 『レイジング・ケイン』以来の邂逅(笑)。あと、野中広務みたいな顔の修道女が意外に重大な役回りで出てるなと思ったら、なんとびっくりイザベラ・ロッセリーニだった!!

●イタリアが舞台なのに、この映画も『ハウス・オブ・グッチ』みたいにみんな英語でしゃべるんだな、と思っていたら、ローレンスは英国人、ベリーニは米国人、トランブレはカナダ人だから英語で話してるのね! あとから出てくる連中は自分の国の言葉をしゃべるし、選挙中は公用語のラテン語を話す。なるほど、これは考えられてるなあ。

●ほかのアカデミー賞候補作同様、映画の背後には「トランプ対リベラル」「キリスト教世界対異教」といった要素がほの見え、製作者のスタンスがうかがわれる。このあたり、パンフのコラムがとても示唆的だった。

●個人的には、つい自分の名前を投票用紙に書いちゃったとたんに、天罰覿面のごとくテロの被害に遭って、心身ともにダメージを負って悄然としているレイフ・ファインズにいちばん萌えた(笑)。

●ラストのひねりについては、ネタ自体たしかに面白いは面白いけど、結局は「何者としてどう生きてきたか」が重要なのであって、「そのこと」については本人すら知らなかったくらいなのだから、あんまり気にする必要はない、むしろ問題視すること自体がナンセンスなのでは、くらいにしか思わなかった(笑)。
そりゃ、家父長制の権化みたいなカトリックの根底を揺るがす事態ではあるんだろうけどね。

●ロバート・ハリスの原作はなぜか未訳(まあ地味な話だしね)。読んでみたいのでどこかの出版社でぜひお願いします。

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じゃい

4.0さすがに良作

2025年5月20日
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楽しい

知的

驚く

実際のコンクラーベを元にしっかりと描写されているのに加え、キリスト教の知識がない人でも理解できる構成になっている。
一つ指摘するとしたら、序盤に登場人物が徐々に紹介される流れの時点で、誰が教皇になりそうか予測ができてしまい、実際に的中してしまった。

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かまきりれもん

3.0正直、難しい。

2025年5月20日
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期待していたようなドキドキ感や緊張感のある展開はあまりなく、全体的に淡々と物語が進んでいきます。派手な演出や大きな山場よりも、人間の内面や感情の機微に重きを置いた作品であり、静かに心を揺さぶられるような印象を受けました。

一度観ただけでは全てを理解しきれず、登場人物の言動や背景に込められた意味を読み解くには、何度か観返す必要があるかもしれません。その分、繊細に張り巡らされたテーマや心理描写に気づけたときの深い納得感があります。

前提知識があるとより深く楽しめる作品でもあるため、鑑賞前に簡単な予習をしておくことをおすすめします。決して分かりやすい映画ではありませんが、じっくり向き合えば向き合うほど味わいが増す、そんなタイプの作品だと感じました。

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FUNAO

3.5今時の脚本とその矛盾点

2025年5月19日
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現実に教皇が亡くなったことで人々は実際の教皇選挙というイベントそのものにも関心を持つことになったわけだが、恐らく制作側の意図としては教皇選挙の派閥争いを通して、バチカン内部への関心を持たせつつ、そこに現代の欧米の政治や思想の問題をメタファーとして織り込んでいる作品であり、そういった時代の変化がテーマになっている作品であると思う。

コントラストのあるしっかりとした撮影とドラマチックな音楽、確かな演技力のある役者をそろえた見ごたえある作品であるが、何よりも複雑な人間関係を見事に整理した脚本力が大きい作品だと思う。

ただ、そのポリティカルコレクトネスを、ふりかけのようにちりばめた「今時な」脚本の好き嫌いは人によって別れるところがあるのではないだろうか。

自由、平等の精神を伝えたいのはわかるのだが、「あの」人物は果たして本当に無私の野心を持たない聖人だったと言えるのだろうか?彼はずっと嘘をついていたわけだ。そして他のものと違い、なぜ彼のついた嘘は許容されてしまうのだろうか?

つまりこれでは理想主義側の正義は紛うこと無き正義なのだという潔癖で、都合の良い物語にしかなっておらず、とても現代の複雑さを内包出来ている作品とは言えないのである(特にこの作品がアメリカで公開された時と違い、アメリカが変容してしまった2025年現在では)。

そのような先進的で理想主義の側が常に正しく、遅れている相手の話は聞く必要がない、という閉じた態度が現代の社会の分断をもたらしているわけである。だからこそ「あの」人物の矛盾や偽善にまで言及出来ていれば、この作品は更に複雑で深い作品になりえていたのではないだろうか。

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moviebuff

4.0予習必須

2025年5月18日
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カタカナ名のおじさんがたくさん出てきて、顔と名前を一致させた上で、それぞれの立場や主張を頭に入れて…としている間に、現実世界の私はおそらく数分、睡魔との闘いに手痛い敗北…。
そのせいか、映画を世界観を6割くらいしか堪能出来なかったと思う。
それでも、前教皇が仕掛けたとおぼしきギミックによって、あざやかに次の教皇が決まっていくさまは、見事だった。
カトリックの教義やしきたりを知ってから見たら、きっともっと深く感じることがあったかも。

奇しくも現実世界でもコンクラーベが行われ、あんなふうにして、決まったんだなーと、これまて遠い世界のニュースだったことが、少しだけ身近に感じられたのは良かった。

ちゃんと下調べをしてから、もう一度観たい映画です。

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まみぃ

4.0人をジャッジする難しさ ある意味問題作

2025年5月18日
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上映から数週経ってるのに結構入ってましたね~。タイムリーな内容だからみんな関心あるのでしょうね。でも、日本人なんぞカトリックに詳しい人などあまりいませんから、多分私の様なちょっと怪しい物見たさに観に来ているのかな?日本からも投票に行かれた方が言ってましたが、内容はともあれ結構リアルらしいから、これは歴史の資料的な映画ですね。どの組織でも権力って人間は惹かれるのかなぁ~って思わせる感想でした。意外なエンディングはある意味問題作。立候補者は自分の胸に手を当てて自分が立候補に相応しい人間か?を問いただしてほしいもの。今年の参議院選挙は吟味しますよ!

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momo

4.0年寄の権力争い

2025年5月18日
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興奮

知的

聖職者だろうが、老人だろうが権力争いは熾烈だと教えてくれた。皆元気だな。

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ニャン

4.5トマスが真実を見極める力

2025年5月18日
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鑑賞方法:映画館

感想

つい最近のニュースでも史上初のアメリカ合衆国出身の教皇が誕生した事が話題となっていた。コンクラーベ自体は以前からその秘匿性の高さが気になり、昨年度のアカデミー脚本賞を受賞した本作を是非劇場で鑑賞したいと思っていたが、体調的に余り勝れず日比谷まで行くには遠いと感じていた。しかしニ番館上映として家の近くの映画館で上映が始まったのて出かけて鑑賞した。

全世界に13億人以上の信者を抱えていると言われているローマンカトリック。その頂点にある教皇が亡くなり次の教皇を選出する為に行われる教皇選挙(コンクラーベ)に於いて選挙管理を司る首席枢機卿の視点を通して展開していく人間が企てた様々事実(事象)を描き変化し続けていく人間模様の中で新しいローマ教皇が選出される模様を描くミステリーサスペンス。

コンクラーベを進めていくうちに次第と分かってくる次期教皇となるべき枢機卿達の過去や人間としての考え方や、神と真摯に向き合う時、神に対する畏敬の念と宗教指導者としての顔の裏にある人間的な虚栄心や自我、利己的な心の葛藤や悩みと苦しみ、自分が過去に犯してきた聖職者としてとても人には言えない罪への贖罪の気持などが赤裸々に浮き彫られる。その様子は現在の全世界が抱えている様々な民族的災いや国家間の争いに巻き込まれる人間の不幸、死の悲しみと重なり観る者に心の葛藤と問題を投げかける。

本作に於ける教皇の選出結果にしてもその結末は其々の個人が持つ宗教的信念と掛け離れていて賛否両論があるのかも知れない。しかし世の中の不確実性極まる事件や事故さらに社会問題化する多様性社会の問題等が、普段の社会には溶け込んでいるが、一旦事象が発生してくると顕在化してくるダイバーシティにおける人種的差別問題やジェンダー受容、格差問題、その他不条理な諸々の現代社会の心理、また細々とした人間関係、社会的要素が加わりそこから想定外の事態が発生してしまうという事実がある。

それらを鑑みると本作主人公の第一日目の最初にあった祈祷の中で発せられる「確信に満ち溢れた信仰、又は確信に満ちた行動や考えほど思い込みが過ぎてしまい独善的な恐怖と抑圧に満ちた偏見を生み出してしまう原因になるのではないか?人として不確実性の中を生きることによる迷いや悩みの原因と苦しみがあるのだが、一つずつ人間として向き合い考えぬき、ある程度の納得をして結論を出して解決していく事が正しいのではないか。此処に集う全員に神様のご加護があります様に。」と祈祷の意味を私は解釈したのだが。ローマンカトリックの各地区のリーダーたる枢機卿という高い位の立場の者であっても人として、また一個人としての考えをその場にいる者の内で心が通い合う者同士だけでも良いので意思疎通を繰り返し話し合う事が最良で正しい判断であると感じさせるシーンが印象的であった。

精神医学の中に認知バイアスという考え方がある。それは判断においての規範や合理性から体系的に逸脱したパターンを指す。閉鎖空間の中で繰り返し行われる投票行動により認知バイアスが働き全く予測が出来ない経緯を経て真の宗教的リーダーが選ばれる事もあるのだということが本作を鑑賞してよく解った。三日間で数回に渡る投票を繰り返すうちに枢機卿達は神と自己との関わり深める。同時に現実として新しい教皇を選出するという行動に認知バイアス規制が掛かりその内で最適と考える候補者を選出していく。しかし単に票集めの政治的工作や競合者を貶める様な裏工作を以って宗教の代表者を選出するという行為は良心の呵責が大きく作用し、新たな情報としてその行動を認知する事により、新しい認知バイアスが作用する。認知バイアスは全く自由に情報を選択できる場合に的確な回答を外しむしろ逆に害を及ぼす場合もあるが、情報が限られた世界(外部からの情報を遮断された空間)においては認知科学又は社会心理学的に見ても認知バイアス上での教皇の選出は真当な事となり得る。

世界的多数の信者を持つ宗教のリーダーを選出するために故意に情報が入れない世界を設定し神と自分を対峙させる事で真実として結論を導き出していく教皇選挙。しかし、真実として選ばれた者であってもその後の振る舞いによっては正当ではなかったと解釈される事も存分に考えられるのだが。

本当の真実とは何か。世界の、どの分野(宗教・国家・政治・民衆文化)にも該当する本当の真実(人間の本来持ち得る、本質的な道義・道徳的な正しさ)は既存の規範や合理性から体系的に逸脱したパターンの中に実は存在するのではないか?そんな気持が湧き出てくる作品であった。

世界の現状は過ぎたる「確信」による災いが世の中ではありとあらゆる場所で頻発し、国家や政府のリーダーがその「確信」を改めない限り世界に平和は訪れる事はない。その中で新しい宗教リーダーであるローマ教皇は世界平和実現の為にどの様な働きをしていくのだろう。興味を持ち注視していきたい。

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脚本・演出◎
想像以上の脚本の出来映え。自分自身の信念や信仰が無くても問題提起として充分な仕上がりをみせる。

配役
レイフ・ファインズ:トマス・ローレンス
神経質で人間性豊かな神への畏れを持つ首席枢機卿を絶妙な演技でまさに聖書にある「キリストの復活を疑い惑うトマス」のような表情を体現していて秀逸。

イザベラ・ロッセリーニ:シスター・アグネス
「ブルー・ベルベット」が自分にとっては衝撃の映画であったので懐かしい。久しぶりに御姿を拝見。シスターの服装なので最初気付かず。

ジョン・リスゴー:ジョセフ・トランブレ
スタンリー・トゥッチ:アルド・ベリーニ
セルジオ・カステリット:ゴッフレード・テデスコ
ルシアン・ムサマティ:ジョシュア・アデイエミ
カルロス・ディエス:ヴィンセント・ベニテス

⭐️4.5

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Moi

3.5宗教的よりも権力争い

2025年5月18日
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宗教的な話ばかりかと思ったが権力争いの話でとてもわかりやすかった、ちゃんと断罪イベントもあって面白い。
最後を知ると顔つきがだんだんと変わって見えてきて不思議。

最近見たホラー映画のが宗教映画で難解な部分が多かった。

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ころころ

4.0赤と白と黒が織りなす極上の映像美

2025年5月17日
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知的

驚く

斬新

教皇選挙(コンクラーベ)というコアな題材を扱いながらも、現代社会が抱える人種や性別、果ては個人的な価値観といった問題を浮き彫りにし、真の多様性とは何かを観る者に問い掛ける大傑作。

最早、全てのシーンが絵画。
丁寧に作り込まれた美しい映像の数々に目を奪われっぱなしでした。
壁を背に映し出される黒い服の聖職者たち、白い傘を差した無数の人が噴水の周りを通る真上からのカット、赤い服に身を包み投票を待つ枢機卿たちなど。
赤と黒と白が織り成す映像の数々は何処を取っても息を呑むほど素晴らしいものばかりです。
当然、衣装や小道具、セットなども文句の付けようがありません。
赤を基調とした質感の良い衣装や豪華な装飾品は勿論、イタリアにあるチネチッタ・スタジオに再現されたバチカン内部のセットが素晴らしい事!
荘厳なシスティーナ礼拝堂や聖マルタの家など本物と見間違えるほど。
それこそ、絵画の中に入り込んでしまったかのような錯覚さえ味わえる作品でした。

そうした美しさの中で繰り広げられる教皇選挙(コンクラーベ)が更に観客の心を掴んできます。
主人公ローレンス枢機卿を演じたレイフ・ファインズの視点で展開される物語なので没入感が物凄いです。
枢機卿が抱える苦悩がいつしかこちらへと伝わり、「なんとしてもコンクラーベを円滑に終わらせたい」という気持ちで一杯になります。
秘密裏で行われる選挙で陰謀や策略が渦巻き、主人公ローレンスを更に追い詰めてくるので緊張感も半端ありませんでした。
ミステリ要素を内包しつつ、静かに展開される物語から目が離せなくなります。

そして待ち受ける衝撃的なラスト!
これほどまでに「多様性」という問題を扱った映画で溜飲の下がる作品はなかった気がします。

間違いなく見逃し厳禁の作品。
見終わった後に「確かな事など何一つない」事を痛感させられる傑作なので、映画館に足を運ぶ事をお勧めします。

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かもしだ

4.5理想と現実を生きる僕達と

2025年5月17日
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鑑賞方法:映画館

知的

難しい

基本的に娯楽にフルスロットルの映画を好む為、真面目系映画はあまり嗜まないのですが、そっち方面としては近年有数レベルで面白いです。

舞台は新しいカトリックのトップを選ぶ教皇選挙、教皇を選ぶ候補者兼選挙権を持つ枢機卿が集められます。
集められた枢機卿は、カトリックのトップクラスの人間だけあり、基本的に全員が善性で有能な人達で同じ信仰を持つ人達ですが、そんな人達でもスキャンダルや権力闘争の中で選挙を行っていくお話です

個人的には、前時代的なカトリックは好きでは無く、選挙モノということもあり、もっとギスギスした話を期待していたため、そういった意味では肩透かしとも言える内容でしたし、リアルのカトリックのスキャンダルや姿勢等を考えると、理想的過ぎるオチは反発したくなる人も多いとは思いますが、劇中のいくつかのスピーチはそれでも私の心には確かに響きました。

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スミクロ

4.5予想もつかない権力闘争劇

2025年5月17日
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鑑賞方法:映画館

教皇選挙を題材にしたところは珍しいけれど、筋は割と月並みな権力闘争劇なのでは? と想像していたんですが、中盤からラストまで予想もつかない展開で驚かされました。おもしろくするために誇張しているのかもしれませんが、投票を行うたびに各候補の得票数が大きく変わっていくので、先が読めません。考えさせられる場面も多く、よくできた脚本だと思います。それぞれの人物造形も巧みで引き込まれました。どのくらい本当の教皇選挙に近いのかわかりませんが、なかなか知ることのできない世界を擬似体験したようでよかったです。

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むっち

4.0あと2回は観たい、

2025年5月16日
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背景を分かって観れば100倍面白かったと思うし、前半の眠気との闘いも来るはずはなかった。
最後のカメとシスター達の笑い声がねぇ…、
とにかくもう一度観たい!

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パンナコッタ

4.0映画で貴重な経験

2025年5月16日
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怖い

興奮

難しい

予告編でむちゃ気になり、楽しみ半分興味津々半分で本編を鑑賞。
 結果は興味津々に。
映画で知る他国の文化にどっぷり浸かる事が出来て幸せな時間でした、まして教皇選挙に立ち会えた事が奇跡でした。

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シネマ急行

4.5息づかいで臨場感が‥

2025年5月16日
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鑑賞方法:映画館

閉鎖的な空間でサスペンスフルな展開が続いて それなのに重苦しく暗く感じずに見つめ続けることができたのは舞台が静粛で美しいと感じたからでしょう
静かな気持ちで見守れたのは 主人公の首席枢機卿のことを 敬虔で純粋な聖職者と思うことができ、彼が亡くなった前ローマ法王を心から慕い、遺志に応えようとしていたからと思います そして、立場的に1番上の人間が「良い人」だったから安心感があったと思う
ずっと聞こえている息づかいから、緊張とか失望とか苦悶とか 心情が伝わってくる感じで臨場感がありました
聖域であっても所詮人間は人間、聖職者であるからには利己的な自分に一般人より葛藤はあるでしょうか
美術的にも堪能できたのと、主人公の枢機卿が綺麗な老人で面相が好きだったのも私には大きかったかな^^
新教皇に選出された人物が、不思議な風貌で 最後の表情には畏敬を覚えました
なにしろ、タイムリーな映画でした!

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mimka

4.0おじさんの苦悩

2025年5月15日
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驚く

ドキドキ

コンクラーベの責任者をやることになったローレンスおじさん。「僕なんかにこんな重役無理...」と苦悩する真面目なローレンスおじさん。その苦悩苦悩のお顔をひたすらたっぷり2時間。
名優ってやっぱり名優なのね、、、面白かった。

重々しい音楽にパリッとした衣装と歴史のある建物、美しかった。

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ゼリィ

4.5静謐で極上なエンターテイメント

2025年5月13日
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鑑賞方法:映画館

楽しい

知的

 ネタバレしないように書きますが、宗教をモチーフにした映画らしく、静謐な空気感の中で、主役のフローレンス枢機卿のため息にも似た呼吸音が響きつつ物語は進行します。

 法皇になりたい枢機卿たちのドロドロした争いもありながら、ストーリーはそれに汚されることなく力強く進みます。

 ローレンスの、迷いを帯びた表情と、法皇への野望が漏れ、でも結局最後の結末へと繋がる流れ。権力を志向して友人へ疑念を抱きながらも最後には聖職者らしい反省を見せるベリーニと、教会の清らかさが保たれるのも見どころです。

 いろんなシーンで、コンクラーベにおける奇跡が現れたような出来事が象徴的に描かれます。
 映像、音楽、そして俳優の演技、さらには脚本と、極めて高いレベルの芸術性が表現された良作です。

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ケンチ

4.5ドキッとするラストに勇気づけられた。

2025年5月13日
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鑑賞方法:映画館

知的

驚く

斬新

久しぶりに自分の中の凝り固まった考え方をぶっ壊してくれたような映画。
それも長年の歴史あるカトリックという巨大宗教組織に対して、本来の人としての純粋な問題提起を表に出してくれたような。

人間の根源的な問いまで考えさせてくれたこの作品。重厚なのにミステリー的なエンタメの魅力もある。音楽も重厚でこの作品世界に合っていて素晴らしい。
個人的にショーン・コネリー主演の「薔薇の名前」を思い出した。あれも宗教の中で起こるミステリーで素晴らしい作品だった。

教皇選出を取り仕切る主人公。自分の中で正しく疑問に持つ事を解決しようと奮闘するにもかかわらず、二の矢、三の矢と問題が生じてうまく行かない教皇選び。自分の弱い心をついてくる逃げの考え。それを啓示するように起こるある出来事。
でも、その問題を真摯に取り組み、悩み、もがく先に思いがけない奇跡のような展開になり、最終的な答えにたどりつく。
その流れ方がむりやりではなく、ちゃんと納得するストーリーの流れだったのがとても真に迫りました。又、自然で、素直で、素朴な考え方に好感と共感が持てました。

そして女性の立場を象徴するカメラワークも。
あのラストの問題提起も思いがけない、現代社会において大きな意義があると思う。
まさに革新的。

2000円払って惜しくない作品だった。
神はやはりいると思う。

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マルマル

4.5名前と顔が一致するのに時間がかかる

2025年5月13日
iPhoneアプリから投稿

けど良かったです。
“Certainty”は有害で、”Doubt”を持ち続けることが重要、という言葉が心に残った。

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Assane

4.5画、演出、テーマ、物語、全部良し

2025年5月12日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

ミステリとして極上なのは、様々に語られてる通り
なので他の部分を…

・画造りがとても綺麗
石造りの白、枢機卿の赤、シスターの青
引きの画で群像を撮っている所は、何処も計算された美しさで綺麗
パンフでイザベラ・ロッセリーニが語る監督の描き方を読んで納得
特に美しかったのは、亡くなった教皇の部屋を赤いリボンと封蝋で閉じるシーン、後に開けるシーン
特に開けるシーンは息を呑む美しさと印象深さ
あと、後半システィーナ礼拝堂を見舞う重要な出来事のシーン
劇場で観て良かった!

・演出がシーン毎に印象的
美しい画を動かす演出もまた良くて
枢機卿の赤とシスターの青が交差する様
教皇の部屋の封蝋を開けた時の、音楽とリボンがハラリと落ちる様
思わぬトラブルでもしかして手に入ったかも知れない物が、手から零れ落ちてしまった瞬間…
その度に息を呑み、手を組んで祈り、こめかみ抑えて苦笑いをし…
鑑賞中ずっと、まんまと演出にノせられていた気がします

・宗教者の選挙で宗教だけじゃないテーマが盛りだくさん
ジェンダー、人種、土地を巡る紛争…
選挙を通じて、今を取り巻く様々なテーマが描かれていて、「今」観て良かったと思いました

現実のコンクラーベ効果で、上映回数増えたおかげで見る事が出来ました
気になってる方は、「今」配信待たずに劇場でウォッチを〜

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みみ