「◇ 閉鎖世界と相対主義と」教皇選挙 私の右手は左利きさんの映画レビュー(感想・評価)
◇ 閉鎖世界と相対主義と
ローマ教皇という称号を聞いて思い浮かべるのは「カラマーゾフの兄弟」の大審問官、もしくはカノッサの屈辱のグレゴリウス7世。ローマ帝国の時代から脈々と続く権威、保守の中の保守、組織としてのキリスト教の中心。バチカン市国の元首という政治性。
次のローマ教皇選出の過程をミステリアスに描いているこの作品は、カトリック教会の中心であるローマ教皇庁の閉鎖性、隔離性をシスティーナ礼拝堂という強固な枠組みの中に再現しています。舞台の壮大さ、厳しさ、白をベースに赤を配した画面構成に圧倒されます。
一方で、その物々しい雰囲気とは裏腹に、繰り返される投票の判断基準は、陰謀、差別、スキャンダルなど下世話な相対主義に右往左往しています。昨今のポピュリズムに支配された選挙結果と社会情勢を皮肉っているようでもあります。
もう一つは多様性。人種、性別などに基づく偏見や対立をいかに包含しながら運営していくのか。個々の信仰の形と教団化した組織としての形、その相克から生じる問題でもあります。
伝統と歴史を積み重ねてきた教会、傍目には大人気ない議論を重ねる枢機卿という権威を持つ老人たち。それぞれの思い悩む姿の中に少年のような稚拙さが浮かび上がってくるドラマそのものがリアルなミステリーです。政界や企業の経営層でもリアルに繰り広げられている人間喜劇(悲劇)を再現しているようで、恐ろしくもある物語でした。
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