「今この時期にこの作品を鑑賞できる奇遇を噛みしめたい一作」アプレンティス ドナルド・トランプの創り方 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
今この時期にこの作品を鑑賞できる奇遇を噛みしめたい一作
現職の米国大統領であるドナルド・トランプを主人公に据えたというだけでも話題性が十分だけど、もし先の大統領選挙でトランプが当選しなかった場合、いったいどういう気持ちで本作を観ていたのか……、という想像を巡らせてしまうのは”いま現在”じゃないと味わえない感覚でしょう。
本作はセバスチャン・スタン演じる若き日のトランプと、彼の人生観に強い影響を与えた「師」である弁護士ロイ・コーン(ジェレミー・ストロング)との関係に焦点を絞っていて、その後破産を経て2度にわたって米国大統領となる経緯までは描いていません。あくまで「若き日のトランプ」を描いた物語であることは鑑賞前に知っておいたほうがいいかも。
トランプ陣営が本作の制作・公開に難色を示していたことから、彼に批判的な内容だと想像してしまうのですが、もちろん妻であるイヴァナ(マリア・バカローバ)に対する暴力を批判的に(そしてかなり間の抜けた調子で)描いてはいるものの、アリ・アッバシ監督の描写は意外なほど中立的、というか見方によっては悪魔的な魅力を持つロイ・コーンによって(とにかくあの三白眼が怖い)魂を汚されてしまう青年としてトランプを描いている、とも解釈できそう。あの父親とこの師匠じゃねえ……、とちょっとだけだけど彼に同情してしまいそうになりました。
今世界を動かしている人物がどのような人生哲学を持っているのか、その一端を知ることができるだけでも貴重な一作です。トランプを成功者とみなしてその人生訓を信奉したところでどういう先があるのか、本作のメッセージをよくよく噛みしめたいところ!
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