「動かない善人より、動く悪人」アプレンティス ドナルド・トランプの創り方 蛇足軒妖瀬布さんの映画レビュー(感想・評価)
動かない善人より、動く悪人
【米国民は、動かない善人よりも、動く悪人を選んだ】
そんな事を展開するでもなく、
最後まで製作意図は分からなかった。
「聖地には蜘蛛が巣を張る」と似ていて、
熱量を感じない、
等速直線運動の映画。
等速直線、どういう事か。
登場人物をとりわけトランプを単純に善悪や黒白で捉えようとせず、
人物の多面性、複雑な側面を描こうと試みている点は、
前作同様に理解はできる。
しかし、簡単に言ってしまえば、
その試みは十分に果たされていないように思える。
特に、主人公の葛藤を描ききれていないことが、
この作品を薄く感じさせる原因だ。
確かに、
題材によってはそのような演出や編集がうまくハマることもある、
例えば、登場人物が一つの視点から描かれ、
観客がその視点を深く掘り下げていくような作品であれば、
このアプローチは功を奏するだろう。
しかし、
本作の題材はドナルド・トランプという、
現代の政治的(悪の)象徴であり、
その人物像については、
ネットやニュース番組、
または他のメディアがすでに膨大な情報を提供している、
なおかつリアリティ番組「アプレンティス」の映画版だ。
トランプの関係者、特にロイ・コーンとのエピソードや彼の整形手術など、誰もが知っている事実がすでに盛り込まれているため、
作品内でさらに掘り下げるのか、やらないのか、
そこが中途半端だ。
芝居自体は魅力的で、
特にトランプの家族とのシークエンスには感情的な深みが見られる。
母親から罵倒されたり、
兄への労り、
父親からの影響を受けながらも自立していく姿など、
彼の人物像を描く上で重要な要素がきちんと描かれている。
しかし、そこに「アイアンクロー」的な展開を、
プロットを建ててやるかどうかの決断を避けた結果、
どこか中途半端な印象が残る。
さらに、
劇中で触れられたトランプタワーに関する税の優遇措置も、
後に市民運動により撤回されて、
莫大な金額が請求されるという事実については触れられていない、
ダークトランプ誕生のプロセスの重要なひとつのエピソードだ。
以上の点が、
作品全体の熱量を抑え込んでいる、
等速直線的な展開のように感じられる理由だ。
もしこの事実をもっと掘り下げて描いていたならば、
トランプという人物の多面性を、
より鮮明に浮かび上がらせることができたのではないだろうか。
歴史的に見てもダークな側面を持つ大統領であるトランプをどう料理するかというのは、非常に難しい問題であっただろう。