「(考察を含むのでネタバレ扱い)異文化排除/理解をテーマにした映画。今週おすすめだが…。」動物界 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
(考察を含むのでネタバレ扱い)異文化排除/理解をテーマにした映画。今週おすすめだが…。
今年404本目(合計1,495本目/今月(2024年11月度)10本目)。
※ (前期)今年237本目(合計1,329本目/今月(2024年6月度)37本目)。
今週、一番解釈が割れそうな作品かなというところです。
早速個々見ていきます。映画のストーリーほかについては他の方が書かれているのでばっさりカットします。
おそらくこの映画は問題提起型の映画で、「異文化排除/理解」をテーマにした映画です。この点は海外(アメリカ、フランスほか)ではすでに公開されており、そうした論点であろうというのが各海外の評価サイトでもだいたい言われているところです。
ストーリーの軸「それ自体」である「動物化する人間」の排除、理解論については、ストーリー全体(排除論)や主人公のエミールの対応(理解論)からもわかりますし、ストーリー上特に「出す必要があるの?」というところのADHDという設定の女の子についても(この子がADHDかどうかはストーリー上何ら関係しない)、極論、車いすの子でも何でもよいのですが、そうした「わかりやすい障害」ではなく、あえて精神疾患を扱ったものだと思いますし、この受容も広い意味では「異文化排除/理解論」に繋がります。
ただ、もう一つの筋(後述)については難易度が結構高く、そこを理解するには結構厳しいのではないかといったところです。この点、日本とのかかわりも含めて記述します。
採点に関しては以下まで考慮しています。
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(減点0.3/以下の理解にたどり着くのが容易ではない)
この「異文化に対する排除/理解論」は一見すると2軸(ストーリー自体と、ADHDの女の子)だけに見えますが、実はもう1つ混ざっており、この理解はかなりの前提知識を要求するのが厳しいかなといったところです。
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(減点なし/参考/フランスの公用語政策と地方方言の排除問題と「異文化排除論」)
映画のストーリーとして主人公たちは南仏に行く設定で、映画内で登場する看板などからスペイン語の混合が見られるのでスペインとの国境あたりかという推測はできますが、映画内で明確に「ガスコーニュ語で書いた抗議用のTシャツを作ったから」というお話が出ます。この話は一度出るだけです。そしてそのTシャツ(ガスコーニュ語)はアップで映りますが、何が書いてあるかは翻訳されていません(字幕も出てこない)。
この「ガスコーニュ語」というのは、上位に「オック語」を含む(大阪方便に対して関西弁があるのと類似する)、フランスの地方方言です。スペインとの国境沿いにあたる地域になりますので、スペイン語の干渉を受けた地方方言にあたります。
日本も含めおよそどの国にも公用語があり、またよほどの小国(モナコ公国等)以外では方言というものもあり、それに対する国の対応も異なります。それらの存在を知った上で一応の標準語に合わせて実態を踏まえて地方方言を許容する立場(日本はここ)、一応の標準語を定めて代表的な地方方言を整理する立場(中国など)がありますが、フランスはこの点について、先進国では極端なまでに厳しい立場です。フランスは国の地理性質上、他国語との混合方言が発生しやすい(ドイツ、イタリア、スペインが主だが、英語との混合言語もあり多種多様になる。また、ドイツ/英語とイタリア/スペインでは言語の種類も違うのでさらに複雑な問題になる)性質があります。
つまり、フランスにおいてはパリで話される標準語を明確に共通言語として制定し、それ以外の言語の「撲滅」を明確に行っていた時期があります。フランスは政府と大統領の2元制を取りますが、1970~90年代がまさにそれであり、各地の地方方言を全部排除する(テレビの内容にまで干渉したり、初等教育や幼稚園・保育園(←日本相当)にまで介入するなど)ような政策を2元制のもと、政府と大統領と協力して作り上げた過去があり、現在があります。現在でも一部の(道路標識などの)看板が政府によって黒塗りされるなどの実態があります。ここには少数言語とされるガスコーニュ語(上位にあたるオック語(に始まる多くの地方言語)が対象であり、その下位言語にあたるガスコーニュ語も対象になった)も含まれており、中には言語として話し手・読み手がほとんどいなくなった言語も存在します。
※ こうしたことは「フランスの言語政策」の問題で、ある程度外国事情にアンテナをはっていればわかります。
映画の中でちらっと一度だけ出てきて「翻訳もされない」、ガスコーニュ語(オック語の一種)の話もちょうどそれにあたるものであり、この映画は実際のフランス国内におけるそうした問題(方言排除問題しかり、性差別しかり多種多様で色々)を問題提起しているのでは、というのが多くの海外のレビューにあり、またそのことはある程度調べればわかります。
ただこのことはおよそもって一般知識とは言い難いし(ある程度知っている人はいる、程度か…)、この理解まで求めるのはちょっと無理ではなかろうか、というところです。
(減点なし/参考/日本とのかかわり)
日本では、外国語として言語を学習するにあたって書籍で学習するとしても、書籍として商用ですから「売れる売れない」ということはある程度意識されます。そのうえで日本においてこれら「外国語方言」に触れる機会があるのは、中国語(北京語→広東語ほか/ビジネスとの関係)、ブラジルポルトガル語(←愛知等に在住する当事者に接するために必要。イベリアポルトガル語(ポルトガルで話されるポルトガル語のこと)との比較。かなり異なる言語)の実質2パターンになるかな、といったところです。
(※) ただ、書籍化や、例えばNHKテレビ・ラジオ他で扱われないだけで、教育内容と日本の実態がずれている例としては、「韓国語」があります。書籍やテレビラジオの語学講座のそれは基本的に「ソウル標準語」ですが、いわゆるコリアタウンは、その成り立ち上、韓国南部の方言がベースになっているため、語彙にかなりの差があります(例えば「チヂミ」一つとっても「ソウルでは」通じない(実際には外国人観光客に配慮しているケースも多々見られる。実際には南部方言の扱い))
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(減点なし(?)/参考(考察不可能)/「「エミール」なんていう名前を付ける親をみてみたい」の趣旨の発言)
南仏に移動して学校(高校)に転入学して自己紹介のシーンで登場しますね。
この点、主人公(であろう)エミールは明らかに男の子であり、女の子に「見える」ような顔つきではありません。また、キリスト教文化が強い国(フランス含む)では、毎日、日ごとに(365通り、ということ)、「今日の聖人」というのが決まっており、それを参考に名づけをするのが一般的に行われており、この点は何を指しているか不明です(この点はかなり海外の評価サイトでも「趣旨がわからない」とされている部分)。
※ 「エミール」に対して女児名は「エミリア」など対応表のようなものがあり(「シャルル」に対しては「シャルロット」など)、この点での誤解も生じえないので、何を指しているか不明な部分です(この点はよく調べてもわからず。なお、フランスにもいわゆる「子供の名前ランキング」みたいなものはありますが、「エミール」は288位(全体母数不明。なお、女児名「エミリア」は2位/海外フランスの2022年データより)。