「無知であることは最大の罪である」ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
無知であることは最大の罪である
原題は「High&Low」。文字通りジョン・ガリアーノの栄光と転落を2時間にわたって追いかけたドキュメンタリーの労作である。膨大なアーカイブから選り抜かれた映像を観せてくれる。またファッション界の綺羅星の如きキーマンたちがインタビューに応じている。「ヴォーグ」の編集長であったアナ・ウィンター(プラダを着た悪魔ですね)やアンドレ・レオン・タリーも登場。(タリーは昨年亡くなってた)
ガリアーノのカレッジ時代から順を追い正確に時系列にのっとって筋が進むのでごちゃごちゃすることはなく、彼が間違いなく天才であったこと、仕事に押しつぶされていったこと、何をしでかし何を失ったのかがとても良くわかる。
まず彼の天才性だが、ジバンシィのデザイナー就任前後のファッションショーの映像が出てくるので、革命児であったことが良くわかる。
ディオール時代に、彼は三つの依存症に悩まされる。一つ目はアルコール、二つ目は処方薬(向精神薬や睡眠薬)、三つ目は仕事である。年間32本ものコレクションの仕事を抱えていたというから尋常ではない。
そしてカフェ「ラ・ペルル」での暴言事件が発生しガリアーノは失脚することとなる。
本作では、当人が長いインタビューに応じており、態度は真摯であり好感は持てる。少し驚いたのは「ラ・ペルル」での暴言事件は別個に3件あったらしいのだがそこを当人が十分認識していなかったところ。いや酔って覚えていないのはその通りなのだろうがインタビューの時点で、何をどのように糾弾されているか整理、把握できていないというのは問題だろう。
ガリアーノと接触したユダヤ教のラビがいみじくも言っているように、彼は基本的に無知であり、能動的(というのもおかしな言い方だが)なレイシストではないのだろう。ただ心神耗弱状態のときに自動的に差別表現が口から出るということは、差別意識がすでに刷り込まれて確固たるものとなっているから。却って始末が悪く、人として恥じるべきものである。だからこそ積極的な学び、潜在レべルまで入り込んだ自己改革が必要なのである。そのあたりについて色々考えさせられることのある作品ではあった。