劇場公開日 2024年8月3日

「うんこ出ました!ビューティフルうんこですねえ♪」うんこと死体の復権 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0うんこ出ました!ビューティフルうんこですねえ♪

2024年8月12日
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鑑賞方法:映画館

冒頭から何度も人間のうんこをドアップで映す。山に放たれたうんこ(注:その研究者が野糞をするために買った個人所有の山です)がどんな変化をしていくのか追う。動物の死体も映す。だから当然、どっからやって来るのか早速ウヨウヨとうごめくウジ虫も、たかってくる蝿も、シデムシ(どうやら漢字だと死出虫と書くらしい)も、画面を埋め尽くす。
初めは、見るのが辛かった。うわぁこりゃマズイわぁ、と思った。
だけど、だんだん慣れてくる。不思議なことに。そして、出ました!と言われて映されたうんこが綺麗に見えてくると、いいなあそういううんこしたいなあとまで思ってくる。これは、ある種の洗脳か?いやいや、生きている以上誰でもするうんこだもの、忌み嫌うことの方がそもそもおかしいのだ。うんこが土になり、それが生き物の養分となり、その生き物を人間が食べて、またうんこになるのだから、いいうんこをすることは自分のためでもあるのだ。それを画面に出てくる人々の熱意に感化されるように学び、理解していく。中学の理科の授業がこんな切り口だったら、僕は理系に進んでいたかもしれないなとさえ思った。
ただ、今の人間社会では、うんこはほぼトイレに流して浄化してしまうのが現状だし、都会で野糞をするのは現実的ではない。そうは言っても、できることならうんこをその姿のまま田畑に返すのが一番いいんじゃないか?それこそ、昨今流行りのSDなんちゃらよりもよっぽど持続可能な環境つくりなんじゃないか。そうだよ、かつて江戸の庶民がひり出したうんこは多摩近郊の農家が取りに来て、代わりにできた野菜を置いて行ったんだった。それこそ無駄のないSDGsじゃないか。その思いに至ると、うんこが愛おしくなるのだよ。
死体もそうだ。さすがにこちらは人間の死体というわけにはいかず、実験用マウスの死体を貰い受けて、虫の湧いてくる過程を研究するのだが、その死体に群がる虫たちが、汚いものではなく、懸命に生きている愛らしい生き物に見えてくる。死体やうんこに群がる虫たちの姿を「大饗宴を広げてますねえ」と賞賛する出演者の皆さんの視線が、とても嬉しそうで、生き物賛歌にしか聞こえてこない。人の死に接することの少なくなった現代、ましてや、路傍に死体が転がっていることなんてあり得ない現代、穢れとしてうんこや死体を嫌い過ぎてはいないだろうか。何万年と人間が地球上で生きてきた中で、うんこも死体も土に帰り、それがまた形を変えて食物となって、循環してきたというのに。その気持ちが芽生えた時、タイトルに「復権」を用いた決意が響いてくるようだった。

※なお、自分が映画を観た8/10はアフタートークあり。
(監督・関野吉晴、土の研究者・藤井一至。)
研究者の視点は面白い。それに、日本人の添加物摂取量は年間4kgとか、数値に基づいた解説には説得力もある。いつか月と火星にも、うんこと死体を持ち込んで土を作り、人間が生きられる惑星衛星になる時代が来るのかな。

栗太郎