「分かっている。お前は俺を騙している。」憐れみの3章 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
分かっている。お前は俺を騙している。
正気と狂気。どいつもこいつも自分は正気だと思っている。それはどんな狂人でもそうなのだろう。自分はまともで相手が狂っていると思っているから、誰かにそれを伝えようとするときに言葉や言動が強くてキツくなる。
まったく物語の異なる3つのパートに分かれているが、エマ・ストーンやウィレム・デフォーをはじめ数人が、ぜんぜん違うキャラの役で登場し、それがまた、人はいくつもの顔をもっていて、見た目と中身は別々なのだと訴えてくるようだ。3つの物語のどれも、話の展開が突拍子もなくて、あっけにとられて進んでいく。微妙にコミカルでシニカルでエロチック。なによりさらりとグロい。そんな中で三話目がどうにか理解しやすいか。日本でもこのような新興宗教ものはよくある。そしてたいてい水に拘っている。『聖水』って小説もあったな。濁りのない水に比した、心と体の清浄さを求めながら、その目的のためなら手段を選ばぬ行動の不純さが、苦笑いを誘う。理解不可な気分に満たされた映画だけど、なんだかこころに引っかかったまま。
たいてい映画はなるべく前情報を入れずに観るのだが、この監督、「ロブスター」「聖なる鹿殺し」の監督か。やはり不条理な話の筋が監督の持ち味なんだな。そして「哀れなるものたち」もそうだと知り、その共通する悪趣味さを思い浮かべてとどこか腑に落ちた気分。
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