劇場公開日 2024年9月27日

「◇止まらない支配と服従」憐れみの3章 私の右手は左利きさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5◇止まらない支配と服従

2024年9月28日
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鑑賞方法:映画館

笑える

 人間社会の中には、少なからず支配と服従の関係が存在します。支配服従関係を最も典型的に示しているのは、奴隷と奴隷主との関係。社会階級として固定された制度として存在してきました。

 現在の民主主義国家において、社会制度としての奴隷制は無くなりましたが、人それぞれの深層心理の奥底には「支配したい欲求」も「服従しなければならない強迫観念」も不気味に蠢いているのかもしれません。

 この作品の題名に使われている"Kind"という言葉の語源には、「生まれながらの」という語義が含まれていたようです。「生まれ」から「生まれのよさ」へと派生して【優しい、思いやりがある】という意味へ。「同じ生まれの」へと派生して【種類】という意味へ。「支配と服従」が人間の「生まれ」に根源的に関係しているものであることを暗喩しているのかもしれません。

 奴隷が解放され、女性が解放されて、平等であると考えられている現代社会。潜在意識の奥に隠されている支配服従関係は、人間存在にとって根源的関心事であるセックスと死に纏わる事柄によって、唐突に表面化してくるのです。

 極端に誇張され戯画化されたこの作品のへんちくりんな世界観の中に、すっぽりと入り込んでしまった時に感じる薄気味悪さ。それは、自分という存在の奥底に押し込められて、隠されている不気味な性質に触れるように感じるからかもしれません。人間の中に潜む動物的な生々しさとの出会いの物語。

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私の右手は左利き