「愛と支配は紙一重」憐れみの3章 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
愛と支配は紙一重
先に言っておくと、この映画は猛烈に不快感を掻き立てられる映画だ。じゃあ面白くないのか?と問われれば「いや、めっちゃ面白いよ?」となる。興味深い。
気持ちいいと面白いはイコールではなく、気持ち悪さが面白いに繋がっていく作品もあるのが映画の醍醐味なのだ。
エログロだから不快だ、みたいな単純な話じゃないよ?支配と被支配の関係性の中で、支配される側の人間がとる行動の一つ一つが、不安と不愉快さを煽り続けるのだ。
それでいて滑稽さも持ち合わせていて、予想もつかない行動に思わず笑ってしまう部分もある。
3本のストーリーの中で、どの物語が一番不快に感じるかは人によると思うが、私自身は2章目「R.M.F は飛ぶ」が一番不快だった。
ざっくり言うと「遭難した妻が帰ってきたが、帰ってきた妻は別人なんじゃないかと疑う夫」の話なのだが、妻・リズの置かれる状況は「遭難からの帰還」という特殊なケースを取り除いても成立する。
夫に何とかして受け入れてもらおうと、自分への愛など存在しないことを否定しようと、そう考えていることが突き刺さるほど理解出来た。
巧妙に支配され、それは自分が自由意志で選択したことのように思わされ、ジワジワと追い詰められる様子が、他人事とは思えなかった。
最も皮肉なことは、遭難以前の夫・ダニエルがリズの自由を尊重する「良い夫」であったことだ。海洋研究という仕事柄、リズがダニエルの元を離れて活動するのは遭難以前から度々あった事だと思われる。彼女を心配しつつも、その活動に理解を示し、彼女を送り出してきた理解ある夫。
二人のお互いを愛する気持ちが深すぎるが故に、二人の迎える結末が恐ろしすぎる。
愛ゆえに支配を受け、愛ゆえにおぞましい行為に手を染める。1章も3章もそこは変わらない。支配される側は何とかして自分の愛や誠実さを示そうと行動し、支配する側の信頼を得ようとする。
それは時に滑稽さを露呈し、観客をブラック・ユーモアの世界へ誘っていくのだ。
1章から3章は全て独立した物語だが、鮭料理や病院、R.M.Fなどによってどことなく関連性が持たされていて、その曖昧な関連性がさらに見ている側が属する現実世界へのやんわりとした地続き感へと繋がっていく効果を果たしているように思う。
また、3章全てが強い結びつきのある物語だとしたら?と考えるのも面白い。
面白かった人も面白くなかった人も同意見だと思うが、完全に「観る人を選ぶ」系の映画だ。だが、この映画の極端とも思える登場人物の中で、自分は誰に最も近いのかを考えてみると良いだろう。
愛と支配は紙一重、という世界に生きているという部分では、映画の中と私たちの間にさほど変わりは無いのだから。