「NOとは言わないスタントマン。しかし…」ライド・オン regencyさんの映画レビュー(感想・評価)
NOとは言わないスタントマン。しかし…
映画作りに情熱を捧げて危険なスタントをやってきた老齢の男ルオが、これまで向き合ってこなかった一人娘と向き合い…
まさに体を張ったアクションやスタントで観客を魅了してきた、ジャッキーの半生を振り返るような内容。しかし1970~90年代に行ってきたような撮影は安全面で行われなくなっている。でもこれまで築いてきたスタントマンとしてのキャリアとプライドがそれを許さないルオ。このあたりも、ハリウッドでは自ら体を張ったスタントができないとして中国本土に拠点を移したジャッキーと重なる。
幼い頃からジャッキー作品を観てきた者としては、やっぱりワイヤーやCGを使ったスタントやアクションは物足りなく感じる。かといって皆ジャッキーのように体を張れとは言えない。本作でのルオ=ジャッキーも、アクションシーンではスタントを使い、細かいカット割りで顔が分からないように撮影している。もちろん古希という実年齢を考えればそれも当然。でもそれよりも何よりも、出来る限りのアクションを見せてくれる姿勢には敬服しかない。ジャッキー作品を観てきた人ならニヤリとする小ネタも盛り込まれていて楽しい。お話が少々ベタなのはまぁ中国映画という事でご愛嬌。
劇中に出てくるルオのセリフ「スタントマンはNOとは言わない」にデジャブを感じた方もいるはず。香港アクション映画の基盤を成したスタントマン達の歴史を辿っていくドキュメンタリー『カンフースタントマン 龍虎武師』内で、証言者の一人が全く同じ言葉を言う。ただジャッキーは『カンフースタントマン』には出演していない。この作品を観た当時は、どことなく一部証言者達とジャッキーとの間に齟齬のようなものを感じていたが、もしかしたら本作の内容との兼ね合いでジャッキーは出られなかったのかも…と邪推。セリフと言えばもう一つ印象的だったのが、「スタントマンは跳ぶのは簡単、でも○○は難しい」。○○が何かは是非とも自身で確認してほしい。
それにしても本作でのジャッキーはよく泣く。涙を流す場面は過去作でもあったが、本作での泣き顔は特に印象深い。涙を流すアクションスターはそう多くないが、ジャッキーほど泣き顔が似合うスターはいない。