「のり子の姉とハルの母」ルート29 ミカエルさんの映画レビュー(感想・評価)
のり子の姉とハルの母
落ち着きがなく、人の気持ちを読み取ることができず、特定のものしか興味を示さない。思いついたことを表現せずにはいられない性格は周囲の人間には到底受け入れ難いものであり、それは家族すらも苦しめることになる。
これは、前作「こちらあみ子」の主人公あみ子の特徴だが、森井監督は、その原作を読んで、「あみ子は俺自身だ!」と確信したという。そしてあみ子も本作のハルも、ほぼ同一人物。つまり、演じている大沢一菜は、森井監督自身のアバターといえる。
誰にも心を開くことなく、ずっと孤独に生きてきたのり子、森の中で秘密基地を作って遊ぶ風変わりな女の子ハル、そんな2人が国道29号線を北上する旅に出る。たった1人で世界と正対する前作に対して、本作は2人が手を取り合って世界と向き合う。
2人は道中、犬を連れた赤い服の女性、無言のお爺さん、森の中に住む親子と出会い、のり子は姉、ハルは母と再会する。
のり子の姉の壮絶な独白は見物だ。教師として理想と現実のギャップに悩んでいる自分をよそに、マイペースに生き続ける妹の身勝手さに苛立ちを覚えるという心情が吐露される。その独白を黙って上の空で聞き流しているのり子に対して、
「お前は幸せになれんよ」「お前はやさしくなんかない、誰にでも、なんにでも無関心なだけや。誰に対しても興味が持てないからそうやって黙って聞いてられるんや」「人間として生まれたからには、人間として生きようとしなきゃいけない。なんにもせず好きなように生きていたらバチが当たる」
ハルの母との対面はやるせなさが残る。ハルは、国道29号線を歩いた過程で起きたこと、出会ってきた人々のことを順に話し終えたが、母はにこりともせずに立ち上がり、「私は死んでいます」と一言だけつぶやいてその場を去っていこうとする。「死んでて良いから、また会おうな」ハルはそう呼びかけた。無気力に生きる母でも生きて欲しかったのである。
はたして自分は死んでいるのか、生きているのか、生きた人間が考え続ける難解な映画である。