「令和浪漫の挑戦」ルート29 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
令和浪漫の挑戦
綾瀬はるかの一ファンとして、半ば”義務的”に観に行きましたが、第一印象は鈴木清順監督の大正浪漫三部作、その中でも特に「ツィゴイネルワイゼン」を思い出した作品でした。「生きている者は本当は死んでいて、死んでいる者が生きている」というメッセージや、色遣いのコントラストが印象的だった同作と同じように、主人公たちが生と死、現実と夢の狭間を行き交いつつ、鮮やかな色遣いによる視覚的なインパクトを多用した幻影的な世界観を描こうとしたのが本作「ルート29」であると感じました。大正浪漫三部作は、原田芳雄や松田優作、沢田研二という当代きっての大スターを起用しましたが、本作も当代きっての人気女優である綾瀬はるかを起用しており、さしずめ令和浪漫作品と言うところでしょうか。
勝手な解釈で散々持ち上げておきながら言うのもおかしいのですが、そんな大正浪漫三部作の雰囲気を思い起こさせる大きなポテンシャルを持ち合わせた本作でしたが、残念ながらその”色眼鏡”が邪魔をしたのか、満足感は今ひとつでした。その理由としては、まずは本作のぼやっとした色遣いにありました。闇=黒を基調にして、鮮やかな原色を多用していた大正浪漫三部作に比べると、本作の色遣いは青空を基調としていて、そのためなのか若干モヤが掛かっていた感がありました。
序盤で登場した道端に並んだ3人のおばちゃんの衣装も、それぞれ赤、緑、黄(だったかな)を使っていたものの、柄物になっていた上、晴天の下であるが故にどちらかと言えば光=白が基調になっていて、そのため色が映えずにインパクトが薄い感じでした。そうした色遣いは終わりまで続いており、まあ作品の世界観としては統一されていると言えば統一されているものの、”色眼鏡”の影響もあってこちらが求めるものが得られずに、ちょっともどかしさが残ってしまいました。
いずれにしても、綾瀬はるかを起用した割には万人受けするような内容ではなく、むしろかなり挑戦的な作品であることは確かでした。個人的には彼女の新境地を見られた感もあり、その点は良かったのですが、前述の色遣いの件しかり、もっと先鋭的でド派手でぶっ飛んだ創りだったらもっと満足度が高かったのではないかなと思ったところでした。
また、東京だとユーロスペースやアップリンクなど、この手の作品を好んで上映するいわゆる単館系の劇場で上映しているのは自然でしたが、各所のTOHOシネマズでも上映していて(私もTOHOシネマズで観たクチですが)、上映館数を広げ過ぎている感じがしました。まあこれは私のようなものが口を挟む話ではないのですが、実際私が観た時の客の入りもちょっと残念な感じだったし、我らが綾瀬はるかの名を高からしめるためにも、むしろ単館系に絞った上映にした方が良かったんじゃないかなとも思いました。
そんな訳で、本作の評価は★3.2とします。