「シュールな作風は嫌いではないが、「絆の物語」が心に響かない」ルート29 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
シュールな作風は嫌いではないが、「絆の物語」が心に響かない
無表情で立ち尽くす人々を正面から長々と映し出す独特の「間」、喜怒哀楽の感情に乏しい風変わりな登場人物たち、人を食ったような突拍子もないような展開と、確かに独特でクセのある映画だが、こうしたシュールな作風は、決して嫌いではない。
トンボが、居場所と写真だけで、どうやってハルを見つけ出したのかとか、どこからカヌーを見つけてきたのかとか、誰が、ハルのことを警察に通報したのかとか、ハルが、あれだけ多くの石をどこから持ってきたのかといった疑問も、あまり気にならない。
ひっくり返った車に乗っていたお爺さんが、カヌーに乗った新郎新婦たちと去っていく場面や、大きな赤い月が街の上に昇っている場面や、山道の上を巨大な魚が泳いでくる場面などのファンタジックな見せ場にしても、唐突ではあるものの、それほど違和感を覚えなかった。
ただ、話としては冗長で、あまり面白さを感じることができなかったのは、残念としか言いようがない。
特に、「3匹目」の犬を捜す赤い服の婦人が語る話や、人間社会を「牢獄」と捉えて、息子と山の中で暮らす父親が語る話はまだ良いとして、トンボの姉に、教師の職とか妹の性格について、それこそ支離滅裂な話を、あれだけ長々と語らせる必用があったのだろうかという疑問が残る。
病院で、ハルと母親が対面するクライマックスにしても、お互いが身に付けていた笛によって心を通じ合わせるようなシーンはあるものの、そもそも、その笛についての説明がないし、いくら母親に精神的な疾患があるのだとしても、もう少しカタルシスが感じられても良かったのではないかと思えてしまう。
結局、これは、それぞれに孤独を抱えて生きてきたメガネとハルが、旅を通じて心を通わせ、絆を深めていく過程を描いた映画だったのだろう。
しかし、その割には、これまでの2人の生き様や、キャラクターの描き込みが不十分だったと思わざるを得ず、そのため、2人の心が繋がっていく様子にも、感動することができなかった。
これが、「理屈」ではなく「感性」の映画であるということは十分に承知しつつも、それならそれで、もっと「心に響くもの」が欲しかったと思えるのである。