劇場公開日 2024年6月21日

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「実話を全く知らずに見たため、テレビ番組内で起こるウソのような本当の話を目にした瞬間、涙を抑えることができませんでした。」ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0実話を全く知らずに見たため、テレビ番組内で起こるウソのような本当の話を目にした瞬間、涙を抑えることができませんでした。

2024年6月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

幸せ

 強権主義が台頭する時勢なのでしょうか、最近ナチスが題材の作品が目立ちます。本作もホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の外伝に入るもの。国に頼れなかった時代、市民レベルでユダヤ人難民の命をつないだ実話に基づいています。
 本作は、名優アンソニー・ホプキンスが主演を務め、第二次世界大戦直前のプラハでナチスの脅威から669人の子どもたちを救ったイギリスの人道活動家ニコラス・ウィントンの半生が描かれています。実際にニコラスに助けられたかつての子どもたちやその親族も撮影に参加しています。

●ストーリー
 第2次世界大戦直前の1938年。ロンドンで株の仲買人をしている青年、ニコラス・ウィンストン(青年時代:ジョニー・フリン)は、ナチスから逃れてきた多くのユダヤ人難民が、プラハで住居も十分な食料もない悲惨な生活を送っているのを目にします。せめて子どもたちをイギリスに避難させたいと思った彼は、同志たちとともに里親探しを行う活動を始めて、資金集めに奔走します。
 ナチスの侵攻が迫るなか、子どもたちを次々と列車に乗せていきますが、ついに開戦の日が訪れてしまうのです。
 それから49年後、老境に入ったニコラス(80年代:アンソニー・ホプキンス)は、救出できなかった子どもたちのことが忘れられず自責の念にかられ続けていました。そんな彼は、大切なスクラップブックを世に出すことを決めます。それはナチスの脅威が迫る開戦直前のプラハから669人の子どもをロンドンに移送させた活動の記録でした。
 そんな彼のもとに、BBCの番組「ザッツ・ライフ!」の収録への参加依頼が届きます。そこで彼を待っていたのは、胸を締め付けるような再会と、思いもよらない未来でした。
●解説
 オスカー・シンドラーや杉原千畝のように、ホロコーストから命を救うべく奔走した男の実話を映画化。「見たものを見なかったことにはできない」という気持ちに突き動かされた偉業を描いています。
 その物語は、約50年後の1988年から当時を回想する形で進みます。迫害からの集団脱出劇とはドラマチックですが、舞台裏は地道な事務作業の連続でした。当局への根回しや資金集め、里親探し。膨大な書類仕事を同志とともに鬼気迫る勢いで進めていく姿が描かれます。
 場面は現在に切り替わり、晩年のニコラスの胸中にあるものは、列車に乗せることがかなわず、救えなかった命への後悔ばかりでした。
 当時希望の列車は計8便がロンドンに到着。けれども9便目は間に合わなかったのです。救えなかった子どもたちを思い続ける老ニコラスを名優ホプキンスが滋味深く演じています。活動記録のスクラップブックは志のある人の手に渡り、感動の再会につながります。助けた子供たちの総数は、子孫を含めると約6000人というのです。
 しかし言葉少なにプールサイドでたたずむ彼の表情には、ヒーローのような勇ましさは全くありません。むしろ多くの子供たちを救えなかった自らの罪を購い続けるかのように人生を過ごしていたのです。
 ジェームズ・ホーズ監督は過去と現在とを交錯させながら、ひとりの男の希望と絶望を丁寧に描き出しています。

●感想
 激動の1930年代の緊迫感、80年代のユーモアを交えた穏やかな日常。カメラワークや空気感でその対比を際立たせた演出がいいと思いました。
 ナチスからの救出ものの作品の多くは、救出される瞬間の緊迫感がクライマックスに置かれがちですが、本作は戦後のニコラスと彼が救出した子供たちが奇跡的に再会するシーンがクライマックスとなっています。
 この実話を全く知らずに見たため、テレビ番組内で起こるウソのような本当の話を目にした瞬間、涙を抑えることができませんでした。
 緩急のある分かりやすい描写で観客を置き去りにせず、作り手の思いが感動的な終盤へと導いてくれます。ワイドショーのようなスタジオでの映像も生っぽさがあって再会の感動を盛り上げてくれました。

流山の小地蔵