八犬伝のレビュー・感想・評価
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虚構が現実となった虚構
面白かったです。感動したというより、ロジカルな面白さというんでしょうか。素直な感想といえば単純に面白かったです。
現実を描くべきか空想を楽しむか。そんな派閥が小説なんかでもあったように記憶しているのですが、八犬伝といえば和製ファンタジーの大作、無論、非現実的な話で、劇中・葛飾北斎が仰るほどに、よくぞその頭で思いついた物だと言うほどのロマンあふれるストーリー。抜けば玉散る氷の刃、名刀・村雨に宝玉の戦士が集ってラスボス対決だなんて、持病の中二病がぶり返します。
この映画はその誕生秘話な訳ですが、その映像再現された劇中劇をかなり本気で作り込まれているのが素晴らしい。作者パートの現実と再現パートの虚構が、衣装やら立ち回りの違いで、ちゃんと区別がつきました。
劇中劇と言えば、あの怪談ミックス忠臣蔵の舞台裏での問答がキモだったんじゃないでしょうか。正直、この映画の本分をそこで理解したような気がします。八犬伝に比べて、忠臣蔵は現実のドラマ化な訳ですが、それもドラマのために手心を加えた虚構であるとも言える、などというロジカルな面白さに成る程と思った。
何が現実かと言えば、大事なのは悪態を付きながら稼ぎを要求しては炭を練り生活を支える作者・馬琴の妻、お百。生活を支える女房であるからこそ、これ以上無いほど現実に生きなければならない。非現実・虚構を追う夫に、息子の病気はお前のせいだと指を差す。なんか、身につまされる思いがします。その現実に生きる姿もまた、虚構との対比する重要なシーンだったのでしょうか。そして息子の嫁・お路さんもまた。
文字通り、絵空事のように宝玉の戦士が集いラスボスを倒して一件落着する虚構に比べ、苦しんで苦しみ抜いて藻掻くように夫の念願を果たそうとするお路さんの功績が素晴らしい。生活のために、子供の世話をして、竹林でタケノコを掘る、そんな日常の傍らで、字を書く暇も無く生きてきた彼女が漢字混じりの文章を口述筆記しようだなんて、私には自分から言い出すことも出来ない。この映画の話のフォーカスがそこに移るとは思ってもみなかった。でも、最後のテロップの通り、この奇跡は八犬伝を知る人にとって当然のエピソードだったのでしょうか。虚構とは違う、現実で何かを達成することの尊さを感じました。
このレビューのタイトルの「虚構が現実となった虚構」とは、ラストの八犬士に迎えられた作者・馬琴の昇天シーン。北斎に代わって訪れたお侍さんが仰られていた「虚構が現実となる」とはまさにこのことか。でも、このシーン、現実ではありえない虚構なんですよね。なんだか万華鏡のように虚構と現実がクルクルしてます。でも、ちょっとカーテンコールな感じもして良いエンディングだったと思います。カーテンコールのある映画が大好きです。
余談ですが「八犬伝」といえばやっぱり、薬師丸ひろ子さんの「里見八犬伝」ですよね。テーマソングを洋楽のロックを採用するとか、何て素晴らしいことか。あれは今でも聴けます。若き薬師丸さんの美しさ。そして、「里見版」の新兵衛訳、真田広之さんの若々しさ。真田さんと言えば、「里見版」侍に憧れる百姓から、「魔界転生」の若き忍者、「ラスト・サムライ」の侍頭等々、最新作は「将軍」様。ご立派になられたなぁって、ずいぶん余談がすぎました。失礼。やっぱり自分も虚構に生きてるなあ。さて、「里見版」も観てみよう。
優れた「虚」は「実」を孕む
物語世界と馬琴の実人生が交互に描かれる、というざっくりした情報を聞いて、2時間半で詰め込みすぎでは?と期待値が少し下がっていたのだが、意外と楽しく観ることができた。山田風太郎の原作が俄然読みたくなった。
キャスティングのよさが光る。メインキャストの役所広司と内野聖陽はいわずもがなの存在感と説得力。時々挟まれる強烈な寺島しのぶ。
八犬伝パートはダイジェスト的な進行だが、キャラ立ちした八犬士たちのおかげで置いてきぼりになったり白けたりせずついていけた。
犬坂毛野を演じた板垣李光人は、登場の仕方が大河ドラマ「どうする家康」井伊直政の時とそっくりだったのだが、犬坂毛野は女装で育てられた女と見紛う美貌という設定らしいので、大河の演出が八犬伝犬坂にそっくりと言うべきだろう。
栗山千明の玉梓。黒クリ様やっぱり最高。ラスボスにふさわしい妖しい圧に満ちていた。
製作委員会方式ではなく、木下グループによるほぼ単独出資であることも、雑念のないキャスティングに一役買ったのかもしれない。
若干芝居がかった虚のパートだが、実際曽利監督は、実のパートとの違いを出すためあえて外連味のあるオーバーアクト気味な演技を俳優に求めたそうだ。
文字起こしされる前の馬琴の脳内世界と思って観ていると、その演出が意外と馴染んだ(ふらっとやってきた北斎に口頭で聞かせる構想という体で始まるので、まさに粗筋)。馬琴の半生を描く物語の中で「つくりごと」として出てくるのだから、これでよいという気がした。むしろ、ひとりだけ現代劇に近いリアクションをしていた河合優実が浮いて見えた(ファンの人すみません私も河合優実は好きです)。
正直「南総里見八犬伝」のストーリーをかなり漠然としか知らなかった私にとって、映画の中で同作の設定とあらすじを見せてくれたことは、馬琴のクリエイティビティの凄さを知る助けになった。そこが分からないと、馬琴の伝記を正しく理解できないだろう。
善なる一族への呪いを解くため、運命の絆と使命を持つ者たちが一人また一人と出会い、敵地に乗り込んでラスボスを倒す。そのあかつきに、彼らに使命を与えた姫君が現れる。これもう、ジャンプ連載作品でしょ。
今時の漫画なら、連載期間が28年にも及べば雑誌への掲載間隔もまばらになり、未完状態で事実上放置されたり作者が色々と描けない状態になる作品もままあるところ、馬琴は76歳になり視力を失ってもお路の助けを得て完成にこぎつけたのだからすごい。
書けなくなるのが駄目なのではなく、それだけ創作意欲を保ち続けられるのは稀有なことなのだと思う。
芝居小屋での鶴屋南北との対峙は、物語の見どころのひとつだ。薄暗い奈落で、馬琴は南北と、創作についての刃を交えるようなやりとりをする。舞台上から暗がりに逆さに頭を覗かせ、天井近くのスペースに貼り付いたまま会話する立川談春の姿と語り口が、絶妙に不気味で可笑しく、インパクトがある。
「東海道四谷怪談」と「仮名手本忠臣蔵」は、いわばシェアード・ユニバース歌舞伎だ。四谷怪談の登場人物は、忠臣蔵の登場人物の娘だったり孫だったりする。映画に出てきた中村座における初演では、この2作品を物語の時系列順に2日かけて上演した。
(このくだりで、中村獅童や尾上右近による歌舞伎、日本最古の芝居小屋である金丸座の様子が見られるのもいい)
この舞台を見た馬琴は、お岩の不幸話が忠義を果たす仇討ち物の合間に挟み込まれている様について「辻褄が合わない」と言う。馬琴は、正しいものは本来報われるべきと考える。一方、南北は四谷怪談を「実」だと言う。正義が報われる話など非現実的だと。
南北の意見に反発する馬琴だが、彼の舞台に惹きつけられたことも事実で、その後この時の会話が頭から離れなくなる。
創作物をただ享受する側から見れば、正しいものが報われる話も、報われない現実を描く話も両方あっていいと思うが、個々の創作者にはそれぞれ違う信念がある。そして、この信念があればこそ馬琴は、28年に渡り物語を紡ぎ続け、完成させることができたのだろう。
正しいと思うものを命尽きるまで貫けば、それが「実」になると華山は言った。息子の死や失明を乗り越えて彼が完成させた物語は、現在に至るまで時代を超えて人々の心を動かし続けている。インスピレーションを受けた後続の作品も数知れない。
その普遍性もまた「実」と呼んでいいのではないだろうか。
「八犬伝」が観たかったのに馬琴の映画だった
「八犬伝」が観たかったのに馬琴の映画だった。それに尽きる。
馬琴が「忠臣蔵四谷怪談」を観劇して史実の美談にフィクションを混ぜた構成に憤慨するシーンがある。
真実を正しく描くことか、虚実をエンタメとして描くのか、そういった入れ子構造を二重写しに描きたかったのかな?と憶測。
八犬伝パートが盛り上がって、いいところで馬琴パートにスイッチしてしまうので毎回興醒め。
八犬士が揃ってからの大立ち回りも雑で萎えたが。
ラスボスもCGショボかったwww ロードオブザリング1作目の時代くらいのCG感覚。逆に懐かしかったかもw ラスボスの倒し方も雑。
馬琴の家族の描き方がひどすぎる。寺島さんのヒスババアっぷりはあれでよく本人が演じてくれたな。
テンポは悪くないのですが演出の拙さに失笑。
役所広司さんと内野聖陽さんの競演、横綱と次期横綱の大勝負みたいで面白かった
蔦屋重三郎の生涯を描くNHK大河ドラマ「べらぼう」がはじまって、北斎に歌麿、浮世絵や読本に注目が集まるのが今年2025年だと思いますが、2024年に公開された話題作で、『南総里見八犬伝』を執筆中の滝沢馬琴を役所広司さん、八犬伝の挿絵を頼まれて、馬琴の家に通う葛飾北斎に内野聖陽さん。映画の半分が馬琴の書斎で北斎と馬琴が語り合うシーンで、役所さんと内野さんの長台詞のお芝居が続く感じで、お二人とも入魂の演技で、お芝居というより、ほんとうに馬琴と北斎にしか見えません。
馬琴の描く空想の世界の最大の理解者で、馬琴の脳の中にしか存在しない、見えない世界を可視化する天才北斎のやりとりを聞いていると、事実上の2人芝居なのに、ワクワクが止まらなくなります。馬琴が『南総里見八犬伝』を書き進めていくたびに、劇中で『南総里見八犬伝』の物語が別立てで進行していくので、八犬伝のストーリーも楽しめて、一度に二度おいしいお話でした。
ただ予算が足りなかったのか、南総里見八犬伝のストーリーはもっとSFXを駆使して、派手に大胆に作れるような気もしました。1本の映画で2つの話を同時進行ですすめているスタイルなので、南総里見八犬伝のストーリーはだいぶ端折られており、八犬伝のファンの人から「八犬伝はこんなもんじゃない。もっと!もっと!話が複雑で、面白いんだよ!」と熱弁されてしましました。なので、南総里見八犬伝は、この『八犬伝』続編として、改めて八犬伝を作ってもよかったんじゃないかなと思いました。
八犬伝の剣士を演じた役者さんとしては、渡邊圭祐さん(犬塚志乃)、板垣李光人さん(犬坂毛野)が光ってました。南総里見八犬伝を映画やドラマにするとき、八犬伝の八人の剣士は、その時代時代の若手スターを抜擢するんだと思いますが、令和の時代に選ばれし「8人」の剣士が暴れる姿を見てみたいです。この作品の劇中のストーリーだけだと、エキストラに毛が生えたくらいの活躍しかできなかったのは、もったいなかったかなと思いました。
題材の難しさに勝てなかったか
八犬伝のファンタジーパートと、作者の馬琴の現実パートが交互に展開する時代物。
映像美が良い作品で、ファンタジーパートでは、スケールの大きな背景CGも違和感がなく、ホラーやファンタジー表現にも拘りが感じられるのが良い所。現実パートの小物や家具、建物なんかもリアリティがあり、炭団を丸めるシーンは生活感があって良い。
展開の面白味としては、ファンタジーパートのアクション、大冒険が一翼で、現実パートで江戸後期の歴史上の著名人が次々に登場する歴史ファンウケ要素がもう一方を担っているか。
問題は、馬琴の「南総里見八犬伝」が陳腐化してしまっているところで、原作の意訳本を読んでもらえれば分かると思うが、現代人には昔ばなしの童話のように感じられてしまうのである。
その辺を映画としてどうクリアするのかな、という工夫が見たかったのだが、想像の域を出なかったのでこの点数とした。現実パートを交えることで鑑賞に堪えるものの、やはりイタさはごまかしきれなかった。
現実パートも不幸フラグが立ちまくりで、盛り下がっていく一方。見ているのが辛く、早く終わらないかな、、、と思ってしまった。
一応、目の見えなくなった馬琴を支えた義理の娘とのやり取りがハイライトなのだが、予告を見ただけで予想できていたので、想像を超える展開が何もなかったのが悲しい。壮絶な苦労があったんだろうけど、映画を締めくくるエピソードとしてはちょい弱めなんだよなあ。
ということで、難しい題材に挑戦して、なんとか凡作に踏みとどまった印象でした。
八犬伝の話は大好きです
私は「南総里見八犬伝」が大好きで、子供の頃はNHKの人形劇「新・八犬伝」にはまってました(笑)
辻村ジュサブローによって作られた「玉梓」の怨霊の人形が、不気味で怖くてゾクゾク感がたまらなかったのを覚えてます。
次々と伏姫の玉をもつ仲間が集まっていき、戦っていく様子は、RPGのようでもあり、ファンタジーでもあり楽しくてたまらなかったです。
その後も映画もみたり、違った解釈で書かれた小説も読んだりしてました。
なので、今回の映画も楽しみにしてたのですが、
お話の部分がしょぼくて、ちょっとガッカリしました。
映画館に行かなくて良かったです(笑)
八房のCGが残念だったのを皮切りに、仲間が簡単に見つかりすぎ(笑)
まぁー短い時間で表現できないのは、わかりますが、本当はもっともっと面白いお話なんです。
なぜその人物がその文字を書かれた玉を持ってるのか、文字の意味もちゃんとあるんです!
申し訳ないだけど、なんか学芸会を見てるようで💦
ただ犬坂毛野を演じた板垣李光人は、毛野にピッタリで女の子より女の子で可愛かったですね(笑)
それに比べて、滝沢馬琴と葛飾北斎の現実パートは、なかなか良かったです。
「虚」と「実」とを語り合うシーンや、馬琴が悩みながら、最後には盲目となりながらも、書き上げていく情熱は凄まじいものを感じました。
現実パートだけでも良かったのではないのだろうか?っとふと思ってしましました。
あっさりが最近のトレンドか?
観終わって「しーん」となった。
これ、馬琴の事が描きたかったのか、里見八犬伝を描きたかったのか、わからない。
この映画の意図が全くわからなかった。
映像美としては、八犬伝パートを楽しめたが、ちょいちょい馬琴パートで盛り上がりがぶつ切りにされ、盛り上がってきた心がいちいち沈静化され、さらには八犬伝のお話自体、わりと端折られてて、3分で読む八犬伝的なダイジェスト感がいなめず、
馬琴の人生の何を伝えたかったのかも、わからず。
両パートいずれも中途半端な描かれ方をしたため、
消化不良で終わった。。。
役所さんと内野さんの無駄遣い。
グラフィックは素晴らしい。そして俳優の力量で持って行ったシーンもいくつかあった。
が、全体的な構想が、いずれも薄っぺらくて萎えた。
アマプラで見たけど、映画館でみたら、怒ってたなぁ。
ま、最近の若い世代の映像の観る感覚に合わせたのであれば、随分と最近の人達は、そこそこのもので満足するつまんない人生なんだな。と思いました。
いや。まて。そんなこたーない作品だっていっぱいあるわい!
つまりは寄せすぎて失速。
ちょいちょい面白いシーンがあっただけに残念すぎる。
日本映画。限界か。
虚と実の世界…
八犬伝の中のパートと創作する馬琴の現実のパートに分かれ、行ったり来たりするのだが混乱すること無く、上手く描かれている。八犬伝のストーリーを全く知らなかったので、それを知れただけでも楽しく、なるほどドラゴンボールだと思った。馬琴と南北の虚と実の世界に対する考え方、やり取りがハイライトであり、考え深かった。どちらも真実だと思う。しかし、その後28年かけて視力を失いながらも、己の信念を貫き通し、八犬伝を完成させた馬琴の思いはお路の奇跡的な助けも手伝い、実を結んだと思う。
虚と実を織り交ぜた馬琴の半生
八犬伝のストーリーと、作者の滝沢馬琴の半生が交互に織り交ぜられて進んでいく。
映画では堅物で偏屈な滝沢馬琴が、和風ファンタジー長編の元祖みたいな八犬伝を想い描けたのはすごいと思いつつ、現実での息子の死と言う救われなさとの対比が切ない。鶴屋南北のつじつま合わせの虚は無意味、と言う言葉と、渡辺崋山の虚でもそれを貫いた人生は実となる、的な言葉の対比も馬琴の悩みが反映されていて考えさせられる。ちょいちょい訪ねてくる葛飾北斎の自由気ままな空気感で程よく和める。
虚と真実が交錯した作品
①ファンタジーな八犬伝(虚)
②滝沢馬琴の生涯(実)
が交互に織りなす不思議な作りをした映画。
①の部分はCGありまくりの、ファンタジー時代劇
②の部分は名役者たちが演じる時代劇
で、場面転換があればすぐに気付けるレベルで系統が異なる。八犬伝パートから現実パートに行くと月日が過ぎていて、馬琴の置かれている状況にも変化があり、また、馬琴自身も段々歳をとっていく。
八犬伝パートはイケメンたちが前向きに闘う勧善懲悪なストーリー、端折られてはいるが、ちゃんと一人一人仲間を見つけて…というワクワクする展開はちゃんとある。どちらかと言うと、若者向けのような印象。
現実パートはさすがの役所さんと内野さん!部屋で会話したりやりとりする中での変化を自然に演じ、お互いが段々を老いていく姿も見事演じている。
印象的だったのは、馬琴の奥さんが、お嫁さんを睨んで死ぬところかな。「女」であることから、家族なのに夫と息子の絆に入り込めない、手を出してはいけない聖域だと思っていたのに、それに事情はあれどもお嫁さんが踏み入れているのを見て、死に際に、お嫁さんのようにしたかった想いと、お嫁さんに対しての嫉妬の「ちくしょう」という言葉だったのかな…と推測。
最後はこの交錯していたストーリーが、一緒になって…というよくある展開だが、それが自然で、馬琴の表情に思わず涙しそうになった。
虚実の交わり
名作「南総里見八犬伝」とその作者曲亭馬琴の執筆の有様を織り交ぜて描くモキュメンタリ―風の新解釈。中でも、虚であったとしても勧善懲悪を理想として描く馬琴と現実の世の性悪説を描く「東海道四谷怪談」の作者、鶴屋南北の虚実の本質を語り合うエピソードは印象的でした。本作の深み、面白みの根源は原作者の山田風太郎さんの慧眼にあるとしてもTBSのCGクリエーターだった曽利文彦さんが脚本・監督とは大変な成長ぶり、お見事でした。
ただ、虚実を交えても映画の愉しみの本質は至高の虚でしょう、余り糞真面目に捉えずに少しは脱力、遊びも交えて作って欲しかった気もします・・。
じいさんとじいさんがわちゃわちゃしている
じいさん(天才)と、じいさん(天才)が、バカ話をしている。
その会話が妙に心地よい。
虚と実を織り交ぜて映像に落とし込む、そのテンポも良い、
100冊以上の大長編になった里見八犬伝はこう書かれたのであろう、という話で、
おそらく冗長な部分を極力削りに削ったであろう脚本家の努力が思われる。
ちょっと気になった点がありまして、
四谷怪談と忠臣蔵のシーンで「四谷怪談は忠臣蔵の裏返し、忠臣蔵という実を虚があざ笑う」というニュアンスの言葉が出てきます。
この言葉に、ものすごく引っかかっているのです。
実はこの映画そのものが曲亭馬琴の「実」を、里見八犬伝という虚があざ笑うという仕掛けを施されているのではないか、という疑惑です。
でなければ、鶴屋南北のシーンそのものがいらなかったのではというくらいです。
里見八犬伝という勧善懲悪が、悪事を働かない(でも偏屈)馬琴とその子の実をあざ笑っているという意味なのかなと思っていましたが、なんかもう一歩後ろにありそうな気がしています。なんだろう。
ともあれ、この映画そのものも2時間を大幅に超える大長編です。
じっくり腰を据えて見られる力作だと思います。
ラストのシーン。
あの演出にするのはべったべただと思いますが、それでも泣けてしまいました。
現実とファンタジーの交錯を楽しむ
今年映画館で見た映画の中で一番面白かった。
2時間半長すぎるとビビっていたけど、虚と実が交互に展開するから飽きることがなかった。
馬琴と北斎二人の掛け合いが印象に残る。役所広司、内野聖陽が役にぴったりはまっていた。
お百が「じじぃ二人が昼までおしゃべりかね」「駄弁も仕事のうちかね」とか嫌味を言うシーンが言いたくもなるよねと共感。
真飛聖のお歯黒の怪しい雰囲気よかった。ミッドナイトスワンに出てた人なんだ。
八犬伝パートを配信連ドラか再度映画化して欲しい!
虚実を交互に見せていく方法はどうなの?と思ったけれど、実パートはこれがうまく行っていた。善因善果・悪因悪果にならない世の中だからこそ、創作の世界くらい勧善懲悪を描きたい、堅物の馬琴(役所広司)の想いが伝わってくる。対照的な風来坊的天才の葛飾北斎(内野聖陽)ぬらりひょんかネズミ男のような鶴屋南北(立川談春)、幸薄く真面目な息子(磯村勇斗)、嫌味なババア演技が最高な妻(寺島しのぶ)がピタッとハマり、馬琴の思いが伝わってくる。28年もかかったこと、お路(黒木華)が口述筆記で刊行させたことも初めて知り、やはり凄い作品と再認識。
一方、虚パートの八犬伝。やっぱり八犬伝て面白いー!!いざとなったら玉を出せ🎵が頭の中で鳴り響いてます。
夏木マリがこれまでならやるであろう玉梓の栗山千秋の恐ろしさ、犬塚信乃(渡邊圭祐)が相変わらずかっこいいし、良き演技。そして、犬坂毛野(板垣李光人)!君はやばい!話し出すまで完全にめっちゃ妖艶な女性と思っていた…未来の絶大なるバイプレーヤーと思っているけれど、本気で凄い役者さんだ。敵の殿様じゃなくてもぼーっとするわ。
若手の良い役者さんが集結し魅力的なキャラクターに命を吹き込む良い演技、凄いCG、美麗な衣装、だからこそ、このダイジェスト版は勿体無い!!! もっと八犬士個人個人のバックグラウンドを知りたいし、1人、また1人と見つかっていくワクワク感を楽しみたい。彼らの活躍をバーンと見たい!この端折りダイジェストは勿体なさすぎるので、配信連ドラかもう一本映画をお願いします。
待つ間、山田風太郎を再度読もう。
編集の勝利
創作物とその作者の人生を並行で描くとなると、どうしても「現実に起こったことを物語に反映させていく」といった展開にしたくなる。
「馬琴の生活のために妥協した結婚」と「伏姫の異種婚姻」、
共に恨み節を吐いてこの世を去っていった「お百」と「玉梓」、
「息子宗伯の夭折」と「五犬士の復活」、
「その犬士復活に力を貸した伏姫」と「八犬伝執筆を再開させたお路」、が
それぞれ対応していると読めなくもないが、そのような演出意図はない。
一方でお路の無筆に苛立って一度は続きを書くのをあきらめかけた馬琴を再び文机に向かわせたのは、架空のキャラや読者の要請等というよりはお百を無学と相手にしなかったことへの後悔だったように見えた。
つまり馬琴は、虚を虚、実を実としてキッチリ分けて生きている人物なのである。
また(これもよくあるが)、彼は現実の辛さから虚の中に逃げ込んでしまうといったタイプでもなかった。悪友の北斎がストッパーとなって現実世界にとどまり続けている。
そして鶴屋南北との邂逅で虚実は実際のところ表裏一体であることを知り、
最後は虚の世界のキャラクターが現実へ迎えに来ることで虚実が「冥合」する。
役所広司の演技がうまいので、馬琴が今何に悩んでいるのかが常に明確だった。
八犬士たちのキャラクター付けが現代の感覚からするとやや弱く、特に夜戦になると見分けがつかなくなってしまったのが残念だ、と最初は思った。たとえば八犬士の服や玉の色をそれぞれ設定して特徴づけるとかすればわかりやすくなっただろうが、あまりに後の世で量産された戦隊ヒーロー然となってしまうし、そもそも馬琴を絡めた映画全体の構成を考えるとあまり派手なCGバトルにしすぎず抑えた調子にしたほうが正解のように思えてきた。
同様に本来三部作で語られてもよいほどの大長編を芳流閣の戦いなどのハイライトだけ押さえてダイジェスト形式にしたのも、創作秘話と並行して150分に収めるためにはむしろよくまとまっていて飽きさせず、これは編集の妙が光る作品だと思った。
滝沢馬琴が語る虚構の物語と馬琴の現実世界が交差していくことへのワクワク感は大であっただけに、物足りなさも。
曽利文彦 監督の2024年製作(149分/G)による日本映画。
配給:キノフィルムズ、劇場公開日:2024年10月25日。
子供の頃から大好きの八犬伝の物語に、作者である滝沢馬琴と葛飾北斎を絡ませるストーリー・アイデアには凄くワクワク感を感じていたのだが(原作者の山田風太郎は凄い)、それだけにかもしれないが、面白い部分アリも全体的にはかなり今一つ感を感じてしまった。
滝沢馬琴(役所広司)と葛飾北斎(内野聖陽)の芸術家としての相互刺激、加えて渡辺華山(大貫勇輔)も絡んでのかなり濃密な交流が描かれていた。こんなの作り話と思っていたのだが、調べてみると歴史的事実の様で、凄く興味深かったし、創作活動の源泉としてとても面白くも感じた。
歌舞伎が上演され観客で賑わう江戸の街や中村座の描写にはとても感心するとともに、この時代に商業芸術が既に花開いていたんだと、いたく関心した。
ただ、四代目鶴屋南北(立川談春)作の「東海道四谷怪談」の「仮名手本忠臣蔵」と交互での2日にわたる初演(1825年)を劇中劇(悪玉主人公の民谷伊右衛門が中村獅童、お岩が尾上右近)として長々と見せられたが、視聴中は意図するところが理解できず、かなり退屈させられてしまった。
まあ、原作者である山田風太郎としては、虚構と実話を対比させた傑作「東海道四谷怪談」初演の更に上に行く、馬琴が話す虚構の物語と馬琴の実生活が相互作用していく新規創作の世界を際立てるために、敢えて劇中劇を設定したということだろうか。ただ映画では、脚本が今ひとつ(確かに劇中劇が面白いストーリーであることを知ったが、のめりこみ過ぎに思えた)で、それは十分には伝わってこない様に思えてしまった。
馬琴と南北の物語構成における勧善懲悪に関する議論は、原作にもあるらしいが、そのまま2人の会話として映画に移してきたのも大いに不満であった。創作者たる監督が南北にとても惹かれるのは分かるが、小説ではなく映画なんだから、映像で語らせろと。また、監督の意図を飛び越えて、主人公馬琴が主張する勧善懲悪がつまらないものに思えてしまった。
一方、大好きなはずの八犬伝の物語だが、ちゃっちく見えて期待外れ。まず出だしのでかいイヌのVFXが、人工的でリアリティに欠く。そして、城の上での格闘VFXは良かったが、八犬伝の武士達、化物化し里見家に復讐する栗山千秋、加えて里見家の殿様役小木茂光の演技も、監督の演出の問題なのか、今一つに感じた。
馬琴と嫁(黒木華)の共同作業による口述筆記は、お互いの苦労が偲ばれ、それなりに心が動かされた。しかし、文句ばかりを言っていた馬琴妻のお百(寺島しのぶ)が、口述筆記を務める嫁への嫉妬の言葉だけを残して、あっけなく死んでしまう脚本は、唐突すぎると思ってしまった。その前に、嫉妬に苦しむシーンをきちんと入れておくべきでしょうと思ってしまった。あの名優が全く活かせてないと、不満が大。
最後の虚構の物語と馬琴の現実世界が交わるラストも、とってつけた様な映像で、平凡すぎると思ってしまった。映像化が難しそうな山田風太郎の原作に敢えて挑んだ心意気は買いだが、完成度は残念ながら高いとは自分には思えなかった。
監督曽利文彦、原作山田風太郎、脚本曽利文彦、製作総指揮木下直哉、エグゼクティブプロデューサー武部由実子、プロデューサー葭原弓子 、谷川由希子、撮影佐光朗、照明加瀬弘行、録音田中博信、美術佐々木尚、装飾佐藤孝之、衣装デザイン西原梨恵、ヘアメイクディレクター酒井啓介、技髪荒井孝治、カラーグレーディング星子駿光、VFX白倉慶二、編集洲﨑千恵子、音楽北里玲二、助監督副島宏司、 松下洋平、アクション監督出口正義、記録山本明美、ラインプロデューサー坪内一、制作担当坪内一。
出演
滝沢(曲亭)馬琴役所広司、葛飾北斎内野聖陽、伏姫土屋太鳳、犬塚信乃渡邊圭祐、犬川荘助鈴木仁、犬坂毛野板垣李光人、犬飼現八水上恒司、犬村大角松岡広大、犬田小文吾佳久創、犬江親兵衛藤岡真威人、犬山道節上杉柊平、浜路河合優実、里見義実小木茂光、丸山智己、真飛聖、忍成修吾、塩野瑛久、神尾佑、玉梓栗山千明、民谷伊右衛門中村獅童、お岩尾上右近、鎮五郎/宗伯磯村勇斗、鶴屋南北立川談春、お路黒木華、お百寺島しのぶ。
タイトルを馬琴にすべき
内容は八犬伝ではない。作者の馬琴の話である。
なので、タイトルは変えた方がいいと思った。
虚と実の区別をするためなのか、
虚の世界観がうすっぺらくて、CGも雑、演技が学芸会なみの棒読み、、、こんなにも現実味を除く必要ないのにと思うほど全てがへた。見ていて共感性羞恥を覚えるほどだった。
実の世界では役所さんと内野さんが重厚な演技で、心理描写もしっかりしており、シーンが虚から実にかわると安心して見れた。
馬琴が長い年月をかけて書いた事や、書くにあたって大事にした事など、知らない点が多かったので、馬琴のストーリーはおもしろかった。
もっと馬琴中心にした脚本であれば、本来のターゲットである中高年の観客が増えたのでは。
今回、馬琴に関心を持ったので、八犬伝を読み始めた。馬琴の心情を考えながら読むとおもしろい。
良くも悪くも
すごく良い面もダメな面もある映画だと思います。原作に比較的忠実でその面白さをベースに小気味よく映像化していると思う。セリフは独白ばかりでユーモラスではあるけどクスッとするくらい。
犬士はイメージぴったりでもっと活躍シーンをみたいって思うし凌雲閣も今まで見た八犬伝の中で一番好きだし。
原作のいいところはきちんと出せているとは思うけどこれだけのキャストを勢ぞろいさせてもっと突き抜けた傑作に出来なかったのかなあ。
犬畜生八房ももっと恐ろしい化け物としても伏姫にしてもとか望んでしまう部分はたくさんあるから。
とはいうものの、山田風太郎の残した作品でエンタメ映画をもっとたくさん作って欲しい。
それくらいの宝の山だとは思うから。
お路伝
薬師丸ひろ子さん主演の「里見八犬伝」がとても好きな映画だったので興味深く鑑賞。
八犬伝を書き上げるまでの滝沢馬琴の物語だったので劇中の八犬伝は大味でした。
滝沢馬琴の軸の物語は、同時代の画家や作家との交流が描かれているところが面白かったです。
ただ感動するところは少なく、最後に黒木華さん演じたお路が美味しいところを持っていったかも。
葛飾北斎のイメージはだいぶ違ったなぁ〜。
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