「編集の勝利」八犬伝 時村博士さんの映画レビュー(感想・評価)
編集の勝利
創作物とその作者の人生を並行で描くとなると、どうしても「現実に起こったことを物語に反映させていく」といった展開にしたくなる。
「馬琴の生活のために妥協した結婚」と「伏姫の異種婚姻」、
共に恨み節を吐いてこの世を去っていった「お百」と「玉梓」、
「息子宗伯の夭折」と「五犬士の復活」、
「その犬士復活に力を貸した伏姫」と「八犬伝執筆を再開させたお路」、が
それぞれ対応していると読めなくもないが、そのような演出意図はない。
一方でお路の無筆に苛立って一度は続きを書くのをあきらめかけた馬琴を再び文机に向かわせたのは、架空のキャラや読者の要請等というよりはお百を無学と相手にしなかったことへの後悔だったように見えた。
つまり馬琴は、虚を虚、実を実としてキッチリ分けて生きている人物なのである。
また(これもよくあるが)、彼は現実の辛さから虚の中に逃げ込んでしまうといったタイプでもなかった。悪友の北斎がストッパーとなって現実世界にとどまり続けている。
そして鶴屋南北との邂逅で虚実は実際のところ表裏一体であることを知り、
最後は虚の世界のキャラクターが現実へ迎えに来ることで虚実が「冥合」する。
役所広司の演技がうまいので、馬琴が今何に悩んでいるのかが常に明確だった。
八犬士たちのキャラクター付けが現代の感覚からするとやや弱く、特に夜戦になると見分けがつかなくなってしまったのが残念だ、と最初は思った。たとえば八犬士の服や玉の色をそれぞれ設定して特徴づけるとかすればわかりやすくなっただろうが、あまりに後の世で量産された戦隊ヒーロー然となってしまうし、そもそも馬琴を絡めた映画全体の構成を考えるとあまり派手なCGバトルにしすぎず抑えた調子にしたほうが正解のように思えてきた。
同様に本来三部作で語られてもよいほどの大長編を芳流閣の戦いなどのハイライトだけ押さえてダイジェスト形式にしたのも、創作秘話と並行して150分に収めるためにはむしろよくまとまっていて飽きさせず、これは編集の妙が光る作品だと思った。