「滝沢馬琴=尾田栄一郎と仮定して…」八犬伝 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
滝沢馬琴=尾田栄一郎と仮定して…
なんでこういう構成にしたのだろうか?
話のネタとしては興味深い。
八犬伝を後世に残した滝沢馬琴の物語。
それに葛飾北斎や鶴屋南北までが参戦する。
虚と実の話が何回も出てきて、構成もそれに準じるものではあったけれど、どうにも噛み合わせが悪い。
「八犬伝」の内容は虚であるが、戯作自体は実である。で…今作が語る滝沢馬琴の生涯は虚ではないかと思うのだ。いや、学がないからこその見解であって、滝沢馬琴研究家が「これぞ!」と唸る程、ご本人の人物像に沿っていたのかもしれないが。
実際、馬琴のプライベートがアレだと仮定すると、劇中劇の八犬伝のウェイトが重過ぎるような気がする。
長いと言うか、くどいというか。
ご丁寧に八犬伝の筋は分かる。
けど、馬琴の生涯を知る事で相乗効果が出てると思えず…なんなら滝沢馬琴物語を見せてくれた方が充実感を得られたような気がしてる。
北斎や南北のようなキャラも出てくる訳だし、ラストのエピソードも効いている。
八犬伝と馬琴が喰いあってる気がしてならないのだ。
それと、八犬伝パートの色味をもうちょい変えて欲しかったかなぁ…。
思うに馬琴の脳内映像ながら演出的には時代劇をやろうとしている。芝居もなんだかコッテリしてる感もある。逆に…この色味を変えない事がテーマと直結してて、虚と実の境目をワザと付けなかったのだとしたら、八犬伝とは馬琴にとっては何だったのだろうか。
そうなると途端に哲学じみてくる。
虚と実の話をすると、他人なんか全部「虚」に分類される。他人が見てる世界と自分が見てる世界の解釈は違うからだ。
確かなものは、自分が感じるものだけである。それが間違っていたとしても嘘でも想像でも推察でもない訳だから。北斎が馬琴の頭ん中が分からないのと同様、他人の頭ん中を100%理解するのは不可能だ。
馬琴にとって、八犬伝執筆は実であって、それを創作する過程も実であるってのが色味を変えなかった意味なのだろうか?
では虚とは何を指すのか。家庭であり世間であろうか。驚く程、馬琴から見た家族の描写は少ない。その代わりに妻や息子から見た馬琴は同一人物かと頭を傾げる程に両極端だ。そして、馬琴が家族に想う事にも溝を感じるような状況も多々ある。
かと言って八犬伝執筆に没入してる馬琴を描くでもなく、苦悩を描くでもない。周りが馬琴を評価する原因が悉く描かれてはおらず、馬琴自体もそこを気にかけてる素振りもない。
…いや、そんな小難しい事を描いてるような作風でもないとは思うので、ここらでやめとこう。
劇中で興味深い台詞があった。
「物語は虚でも、その精神を貫けば、それは実になるのでないですか」とかなんとか。
素直に「だよね」と思う。
が、ここに待ったをかけるのが南北で…出来もしない理想を掲げるのは無意味だとか何とか。
「正義は必ず勝つ」このありもしない幻想を流布し浸透させたのが滝沢馬琴なのかと思うと戦慄さえ覚える。
八犬伝以前にはそう言うファンタジーに分類される戯作はなかったのだろうか?
八犬伝以降、現代に至るまでその思想を拠り所にする精神論が蔓延ったとするなら恐怖でもある。
実際、俺もそんな事を考えながら日々降り注ぐ理不尽に対処してるような気にもなる。
いや、これも本作のテーマではなかろう。
どうにも居心地が悪いのだ。
思わせぶりな台詞が多すぎるのかしら?
単純に八犬伝誕生秘話でも良いのだけれど、そうなると馬琴の境遇が不憫で、と言うか不憫なエピソードしか語られずで…執筆者のプライベートとか違う世界過ぎて知りたくもないのだ。
明石家さんまさんが「TVで泣かないのは、お客さんが笑ってくれへんくなるから」という信念を持ってらっしゃるらしい。
そう言う事だと思うのだ。
読者は我儘だ。
本作を見ながらに思うのはONE PIECEを執筆中の尾田栄一郎先生の事である。
連載が終わるまでは死んでほしくないし、彼のプライベートを知りたいとも思わない。
どんな人物でどんな境遇なのか知る術もないけど、知る事で作品に対する雑味となってしまうなら、それこそ本末転倒ではなかろうかと思うのだ。
乱暴な言い方をすれば、執筆者の境遇などどうでもいい。そのぐらい執筆者と読者の間に距離があってもいいと思うのだ。
だから、本作の切り口はよく分からなかったのだ。
滝沢馬琴物語なら俄然興味はある。
それも八犬伝執筆の裏話なら。
が、本作はそうでもなさそうなのが難点で…本作が語る「滝沢馬琴」自体が虚、つまりは創作である匂いがプンプンする。
八犬伝パートがもっと凝縮されてて、続きが見たいと思うくらいでも良かったんじゃなかろうかと思う。
実際、前半は壮大なスケールだった。
後半になりCGに逃げたというか安直になったというか…おざなり感が強かったのが残念だ。
驚いたのが原作「山田風太郎」のコールがあった事だ。
実際、原作は読んでないのだけれど、角川映画の「里見八犬伝」の原作も山田風太郎だったように記憶している。
いや、角川の方は「南総里見八犬伝」だったかしら。
※調べたら角川の方は「新・里見八犬伝」で原作者は鎌田敏夫さんだった😅
ともあれ角川の里見八犬伝は大好きで、今尚、生涯ベスト3の1本には入ってる。
監督、深作欣二が偉大なのか、脚本家が偉大だったのか分からんけど和製ファンタジーの最高峰だと今でも思う。
まぁ、ともあれ、役者同士の掛け合いは面白くて、特に寺島しのぶさんの役所はとても重要だった。
彼女1人が虚を実に繋ぎ留めていたと言っても過言ではない。
ネタ的には面白かったのだけど、配分が好みではなかったなぁー。