劇場公開日 2024年10月25日

「「大衆の娯楽」作の「校正原稿」は「読者」にとって「有害」だ」八犬伝 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「大衆の娯楽」作の「校正原稿」は「読者」にとって「有害」だ

2024年10月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

江戸時代末期の天才戯作者・滝沢(曲亭)馬琴が著した「南総里見八犬伝」の物語と、馬琴自身の半生を描いた物語が交互に登場する構成の作品でした。原作者は昭和から平成を股に掛けた天才作家・山田風太郎ということで、日本を代表する2人の作家の合作のようなストーリーなので、お話自体は非常に面白かったです。また、馬琴を演じた役所広司、そして馬琴の盟友として描かれる葛飾北斎を内野聖陽が演じたのをはじめ、出演する俳優陣も超豪華で、彼らの演技を観るのも楽しかったです。
特に感心したのは、馬琴の物語の中で、同時代の狂言作者である鶴屋南北の「東海道四谷怪談」の歌舞伎が演じられる場面があり、何とこの歌舞伎を中村獅童(伊右衛門)や尾上右近(お岩さん)という現役歌舞伎役者が演じていたところ。餅は餅屋にというところですが、本職に演じさせた芸の細かさには大いに拍手を送りたいと思います。

一方で、ちょっと気になったのが登場人物、特に馬琴の物語中の言葉遣い。「大衆の娯楽」、「校正原稿」、「読者」、「有害」と言った言葉を馬琴が使っていましたが、どうも時代劇にはそぐわない感じがしてしまいました。この方が意味が分かりやすいということなのかも知れませんが、ちょんまげを付けた現代劇という作風ではないため、もう少しそれらしい言葉に置き換えて欲しかったなと感じました。

そういう不満点はあるものの、前述の通り役者陣が素晴らしく、特に女優陣の演技に目を奪われました。「南総里見八犬伝」のラスボスである玉梓を演じた栗山千明や、お歯黒をして悪役を演じた真飛聖、そして馬琴の悪妻(?)を演じた寺島しのぶなど、癖のある役柄を演じた女優陣はその中でも非常に良かったです。

そんな訳で、本作の評価は★4とします。

鶏
みかずきさんのコメント
2024年10月29日

共感ありがとうございます。

私も、滝沢馬琴と葛飾北斎の台詞が現代的な気がしました。

序盤のシーンで、葛飾北斎が初めて八犬伝原稿を読んだ時、
北斎の設定した八犬伝の時代に鉄砲が使われているのはおかしいと質問した時、滝沢馬琴は読み手が許してくれると判断して鉄砲を登場させたというような回答をします。

厳密には矛盾があっても、読者の許容範囲ならば良しとする。
作品の面白さの方を重視するという意味だと解釈しました。

台詞も同様だと感じました。
現代的な台詞を使った方が観客には分かり易いだろうし違和感はそれほど感じないだろうという作り手の判断だと推察しました。
あくまで私見です。

では、また共感作で。

ー以上ー

みかずき