「ようやく満足出来た。」八犬伝 羅生門さんの映画レビュー(感想・評価)
ようやく満足出来た。
薬師丸ひろ子・真田広之が主演の深作欣二監督「里見八犬伝」に失望していたので、ようやく満足出来た。山田風太郎の原作は未読なので、滝沢馬琴と葛飾北斎、鶴屋南北の「実」パートはとても興味深く面白く楽しめた。どこまで真実性があるのかな。「虚」のパートは今までの東映映画と比べれば圧倒的に楽しめたが、脚本は1959年バージョンの方が面白い。少なくとも犬江親兵衛の登場シーンはオリジナルに準じて欲しかった。「南総里見八犬伝」オリジナルを尊重して欲しかった。何より、八房と伏姫のエピソードは厳密にして欲しかった。義実の戯言から八房が伏姫を欲し、のし掛かる姿や、洞窟での同居で八房が迫るが伏姫がそれを制して読経で邪念を払うシーン、最後は気にやられ伏姫が妊娠する場面、金鋺大輔により八房が射殺され、伏姫は体の関係はなく懐妊したことを証明するために腹を切り、貞操の証明を果たした後、そこから仁義礼智忠信孝悌の珠が飛び出し、四方八方に飛び散っていくシーンを見たかった。あたかも「獣姦」を連想させる、これぞ玉梓が怨霊が、孫子の代まで畜生道に陥れ祟ってやる、という呪いの具現化だったのに。後は犬坂毛野の女形の由縁・犬村大角の父を殺めた化け猫騒動・ひとり幼い犬江親兵衛の生き返りエピソードなどはちゃんと見たかった。浜路のエピソードもオリジナル通りにして欲しかった。とは言え、芳流閣の屋根上での犬塚信乃と犬飼現八の捕物・決闘はスペクタクルで楽しめたので満足。八犬士がひとりずつ登場して仲間になるプロットは黒澤映画「七人の侍」の原型なのかな。犬坂毛野の女装で暗殺は「ヤマトタケル」を模しているのか。大鷲に拐われる浜路姫は「シンドバッドの大冒険」から?犬塚信乃を追いかける浜路は吉川英治「宮本武蔵」のお通の原型か?スペクタクルな活劇にファンタジーを絡ませつつ、化け猫のオカルト話や玉梓・船虫・伏姫の懐妊など、様々な女性がらみのエピソードは少し淫靡なエロスを感じさせたのに、そこが薄められたのが残念。珠が飛び散るシーンや豪傑が次々に集う展開など、この作品に影響を与えた108人の英雄が活躍する中国の古典「水滸伝」もまた映画化して欲しい。子供時代に夢中になったNHKの人形劇「新・八犬伝」以来の傑作だ。