劇場公開日 2024年7月12日

「この映画は、私たちを映す鏡だ!」ある一生 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0この映画は、私たちを映す鏡だ!

2024年7月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

アンドレアス・エッガーと言う男の一生を、3人の俳優が演じている。
三つのトピックがある。
20世紀のはじめ、アルプスのふもとのオーストリアの村に、お金でもらわれてきた当時4歳のエッガー(イバン・グスタフィク)。農場を営むクランツ・シュトッカ―は、義妹の(たぶん)私生児のエッガーを、外的には養子だが、実際にはただの働き手として扱い、表面上キリスト教を信奉していることもあって、家族の手前、つらく当たり、ろくな教育も与えないまま、苛め抜く。味方してくれるのは、義理の祖母のアーンルのみ。
18歳になって、立派な若者に成長し、耐えきれなくなったエッガー(シュテファン・ゴルスキー)は、家を出て、日雇いの仕事でお金をため、標高の高い土地付きの山小屋を手に入れる。折しも、ロープウェイの建設の話が持ち込まれ、仕事熱心なエッガー大活躍する。村の居酒屋の手伝いに来ていたマリー(フランス語読みだった)と知りあい、結ばれる。しかし、幸せも長くは続かない。40歳台だったのに、ナチの徴兵にあい、敗色濃厚の東部戦線(コーカサス)に送り込まれる。
敗戦後、ソ連で6年間の捕虜生活の後、エッガー(アウグスト・ツィルナー)は、やっとの思いで元の村に戻るが、既に、観光の村になろうとしていた。農家の手伝いをするくらいで、居場所を見出すことは大変、難しかったが、たまたま知りあったベテラン教師の女性アンナ・ホラー(マリア・ホーフステッター)に、「本物の食欲を持った、本物の男」と称賛される。
この映画を観ていて、ハンス・シュタインビッヒラー監督の言う通り、この映画は、観ている自分を映している「鏡」だと思った。この映画を観た人は、若い人も、中年の人も、高齢者も、それぞれに自分の悩んでいることや、自分の姿に気付くことになるだろう。とても、エッガーのように、口数も少なく、質朴に生き抜くことなんてできそうもないが。彼は、身体も頑丈で、いじめや事故で、けがも多かった。それにしても、マリーに口数が多いと言われたのは、本当におかしかった。もしかしたら、何度も手紙に出てきた Liebe Marie は「マリー様」かもしれないけれど。いつまでも、心に残る映画だ!

詠み人知らず