「炎 燃え尽きてしまう男 それは21世紀の私達のことなのかも知れません」シド・バレット 独りぼっちの狂気 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
炎 燃え尽きてしまう男 それは21世紀の私達のことなのかも知れません
シド・バレット 独りぼっちの狂気
2024年公開
シド・バレットが何者かを知らなければ本作を観てもなんの意味も無いと思います
そもそもピンクフロイドが何なのか自体知らないなら、本作を観るのは時間の無駄です
そのような人が無理に本作を観て理解しようとするのは全く時間の無駄です
ましてその不毛な体験をレビューに書くのは不愉快な思いで腹いせを書くだけの行為になるだけだと心からそう思います
一方でシド・バッレトの名前を知り、彼の楽曲も大昔から聴いて来たようなカルトに頭のてっぺんまでドップリ浸かっている人ならばとうに知っていることばかりで、ものたらない映画だと辛辣なレビューになってしまうのも理解できます
そのようなカルトな映画です
だから観客動員なんて見込める訳も有りません
日本公開されただけでも奇跡です
ピンクフロイドの名前ぐらいは、古くからの音楽好きならば今でも少しはいるだろうという配給会社の期待だったと思います
だからあっという間に公開終了になると思い慌てて劇場に行きました
平日の真っ昼間だったので、観客は自分を入れて良くて2~3人程度と思っていました
しかしビックリしたことに20人程も観客がいるではないですか!
そんなにも沢山の客入りがあるなんて目を疑いました
さすが神戸というべきだったのかも知れません
何故そのようなカルト的な映画が2023年に作られて今年公開されたのか?
それは一体何を意味しているのか?
それを理解している人がこんなにもいることに驚愕です
映画ではシド・バッレトと接していた当事者本人がカメラに向かって直接語っています
いままでの又聞きや伝聞による文章で作られたどこまでが真実で、どこかが虚像なのかも明確では無かったのです
シド・バッレト本人と、その当時のピンクフロイドの嘘偽りのない真の姿が本作で初めて確定した真実として教えてくれたのです
本作はそこに意味があるのだと思います
シド・バッレトの精神が、彼が脱退してもなおピンクフロイドのサウンドの核そのものであること
ピンクフロイドの最高傑作「狂気」は1973年の発表であり、去年2023年がその50周年であったこと
そして、そのアルバムは世界で5000万枚も売れた世界で最も売れたロックアルバムであること
それ故に本作が作られたこと
そんなことは本作を観る人ならば、百も承知のことでしょう
シド・バッレトが何者なのか
ピンクフロイドが何なのか
本作ではそんなことは、本作を観に来る者ならば当然知っていることとして一切説明されません
証言する多くの人物も名前のみの紹介で、本作を観る人ならばそれで十分だろうという映画です
自分もそれをここでいちいち書くつもりもありません
それでいいのです
分かる人だけが分かる映画というものがあっても良いと思うのです
知らない人が本作を観て無理に知ろうとする必要も有りません
シー・エメリー・プレイがまさか劇場で大きな音響で21世紀に流される日が来るなんて夢にも思いませんでした
短くたってそれでいいんです
だってレコードは家にあるんですから
アート集団ヒプノシスが関わったのが明らかな映像が含まれていたのは驚きと共に大きな喜びでした
ボブ・マーリーの映画も不思議なことに2024年の同じ時期に公開されました
彼の活動時期はピンクフロイドと重なっていたのですから
半世紀50年の昔のこと
そんな大昔のことを懐かしむ?
なるほどそんな映画かも知れません
しかしボブ・マーリーの「エキソダス」が21世紀の私達に今必要なメッセージを発信しているように、本作もまたなにかしら21世紀に生きる私達の心に突き刺さるメッセージを発信しはじめているような気がしてならないのです
心のどこかでシド・バッレトを探していたことを突然思い出したかのように
Wish you are here
あなたがここにいてほしい
分断され人々はみな孤立してしまう
世界中の人々がみなそう思うような時代に、21世紀はとうとうなってしまったのです
だから予想を上回る人が劇場にいたのだと思うのです
炎
燃え尽きてしまう男
それは21世紀の私達のことなのかも知れません
今夜はShine On You Crazy Diamondを聴きたい
そんな気分です