「作りが丁寧な映画」国宝 ビューさんの映画レビュー(感想・評価)
作りが丁寧な映画
公開からしばらく経った平日に劇場で観ましたが、ほとんど席が埋まってて驚きました。
映画自体は、歌舞伎の描写がとても美しく、劇場のスクリーンで観るからこそ輝くものだと感じました。
ストーリーは、芸で成り上がる東一郎と歌舞伎役者一族の血筋で成り上がる半弥のバディもの編と、人間国宝まで芸のみで成り上がる後編(サクセスストーリー編?)に分けられます。
半弥は芸に泣かされ、また東一郎(と半弥も)は血筋に泣かされます。お互いを羨みながら成長していく描写が生々しくて良かったです。
舞台前震えが止まらない東一郎は半弥に「お前の血が欲しい」と口にします。しかしその血筋が原因で、半弥は半二郎(渡辺謙)同様、糖尿病で命を落としてしまいます。
半二郎に「血がお前を守ってくれる」と言われた半弥が、血に泣かされるのは何とも言えない気持ちになりました。
このあたりの描写も、曽根崎心中と、歌舞伎と心中するつもりの半弥の状態を重ね合わせており、丁寧でわかりやすいものでした。
血を継いでいない結果、糖尿病にならなかった東一郎。半弥に家督を奪われドサ回りをし、しかし半弥の最期が近いことを悟り、家督を継ぐことになり、複雑な思いがあったと感じさせました。
ですが曽根崎心中で見せた表情は半弥を失う辛さで満ちており、バディもの編として美しい終わり方でした。
花井東一郎襲名の際、神社で悪魔に「芸以外何も要らないから成り上がりたい(うろ覚え)」と娘の前で誓ってしまう東一郎ですが、妻と娘とも疎遠になり、半弥を失い、とうとう芸だけが残り人間国宝まで上り詰めます。
インタビュアーにドサ回りやスキャンダルが無かったかのように「順風満帆な歌舞伎人生(うろ覚え)」と言われ、娘がカメラマンとして現れても表情から感情はあまり読み取れません。
この時の達観したような、感情の機微が感じられない表情が、東一郎がまるで人間の枠を超えて芸術品になってしまったような感覚に陥ります。同じように人間国宝だった万菊(田中泯)さんと重なります。
総じて、人間関係の描写、歌舞伎の描写がとても良いバランスで両立されていると感じました。
3時間長の映画ですが、あっという間に感じました。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。