「伝統を支えてきた人々」国宝 kijさんの映画レビュー(感想・評価)
伝統を支えてきた人々
血統が歌舞伎を支えているものの表であるとすれば、血統ではない者や女性という、裏で支えてきたものを主役とした作品である。
歌舞伎の家に生まれることが標準のスタートラインであるならば、それ以外の家に生まれることはマイナスからのスタートであり、さらにもとの家柄が任侠というのであればマイナスの中でもかなり下である。芸能と極道のつながりが深いことは冒頭の場面から示されているが、あくまで表に出てこない裏の話である。本来表には出てはいけない血筋から類稀な才能が生まれてしまったところに妙味を感じた。
主人公の喜久雄は晩年に国宝となるが、作品に出てきたもう1人の国宝である万菊も裏の人物であろう。俊介と喜久雄が歌舞伎の世界に戻るときには手を差し伸べていたが、歌舞伎が必要とする人物を見極めていたように感じた。表舞台から離れた喜久雄を呼び出したのが誰もいない殺風景な部屋であるところに、国宝でありながら表舞台から離れて最後を迎えたであろうことが想像できる。半二郎や俊介が病に侵されながらも最後まで舞台に立っていたこととは対照的である。もしかしたら歌舞伎の家柄出身ではないのだろうか?
男しかいない歌舞伎役者の世界だが、女達もまたそれぞれに役を演じているのだと考えさせられた。喜久雄を慕う3名の女性はそれぞれの役で喜久雄を支えていた。この世界では歌舞伎が中心であり、それをどう支えるかが最も重要であるのだろう。
血が重要であった歌舞伎の世界だが、時代を経るに従い変化も余儀なくされていた。俊介の子は歌舞伎よりバスケットボールに夢中になっていたし、喜久雄にはそもそも息子がいない。歌舞伎の才能には見た目も含まれていると思うが、それを維持する家が続かない。喜久雄が国宝に選ばれた際のインタビュアーの解説では、さも喜久雄がずっと晴れ舞台で活躍してきたかのような話ぶりであった。スキャンダルなどなかったかのような様子だが、世間からすればやはりそのように見えるのであろう。かくいう私もこの作品を見るまでは歌舞伎の世界の知識はほとんど持ち合わせていなかった。伝統を繋いできた人々の壮絶な生き様を学ばせてもらった。
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