「覇王別姫の名前を出さないで欲しかった。」国宝 kogumaさんの映画レビュー(感想・評価)
覇王別姫の名前を出さないで欲しかった。
元々見るつもりはありませんでしたが、覇王別姫に影響を受けていると監督が仰っていたと知り見てみました。期待値が上がって、歌舞伎の立女形や真女形など軽く調べて映画を鑑賞しましたが、全然違いました。名前を出さないでほしかったです。
終始、2020年代の俳優が1960年〜2010年代の衣装をきてる感が拭えず、現代風のセリフ回しや髪型で最初の学生時代のシーンなんかは現代の青春映画を観てるのかと思ってしまいました。それでいてこの時代ではいけないという理由が特にないため、没入感がなく最初からツッコむような姿勢で見ざるを得ませんでした。
学生時代に出会った二人が次のシーンではいきなり仲良くなってるところも不思議でした。暴力や規律で徹底的に削られた環境で「芸だけが生きる手段」という切迫感や、その閉鎖的な空間が二人の関係を生み出したというような描写があればまだ感情移入できたと思います。
喜久雄が真女形なら舞台の上だけでなく日常の所作や生き方全てを「女らしさ」に捧げているくらいの作り込みが必要だと思います。そして、真女形が多くの人を魅了するのは、単に生物学的に女に見えるからではなく、実際には存在しない「女」として生きているからだと思います。だからこそ美しいのではないでしょうか?
「悪魔と取引した」という割にその代償や魂を削られてもやってやるみたいな決意や執念深さがいまいち感じられませんでした。「悪魔」=男社会の閉鎖空間での権力関係やそういったものをイメージしていましたが、役を得るために好きではない女と付き合ったという描写だけ。
全体的にキャラクターのセリフによる説明の多様、女性キャラクターが舞台装置的役割でしかなくキャラクターとしての描写が弱すぎたり(男社会だからこそ女性がどう生きるかが描けるのに!)、名門の跡継ぎの妻として入れ墨ある女がテレビに出てたりなど、色々ツッコミどころはありましたし、最後のシーンでは、あぁ、本当に蝶衣は美しかった、レスリーチャンは本当に美しかったって、映画自体に感動するんじゃなくて覇王別姫を思い出して泣きそうになりました。
横浜流星さんの演技はすごく良かったです。女形の時のわずかな口角とか表情とか素敵でした。歌舞伎界に忖度しているのか、闇という闇はなく、芸はこんなに残酷で、でも美しいというところまで突き詰めてほしかったです。
追記
私はこの作品を覇王別姫と比べて、どちらが優れている、劣っているとレビューしたいわけではありません。ただ、監督が「覇王別姫に影響を受けた」と発言していたため、その思想や骨格を受け継いでいるのではないかと期待してしまいましたが、実際には、構図やポスターといったビジュアル面の模倣だけで、作品全体からリスペクトが全く伝わってきませんでした。むしろ覇王別姫の名前が宣伝のために消費されただけのように思えてしまい、ただただ悲しかったというだけです。この発言がなければ、私はそもそも映画館に足を運ぶことも、こうしたレビューを書くこともなかったと思います。(ある意味では正しい宣伝の仕方なのかもしれません笑)
また、私のレビューが覇王別姫と比較していると受け取られてしまった方もいるようで、少し残念に感じます。私は映画自体を観たうえで感じた不満や違和感を中心に書いたつもりです。
覇王別姫は私にとって大切な作品だからこそ、誤解されたくありませんし、このレビューによって覇王別姫が悪く思われることも望んでいません。もちろん、観ていない人を否定したり、観るべきだと押しつけたいわけでもありません。
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