「奥寺脚本の切れ味はないが力作。今年度の代表作だろう。」国宝 ひぐまさんさんの映画レビュー(感想・評価)
奥寺脚本の切れ味はないが力作。今年度の代表作だろう。
初日に見ていたがあまりのスケールの大きさにレビューが滞った。ご容赦を。
歌舞伎をテーマとした映画としては原田芳雄さんの遺作となった地域歌舞伎の「大鹿村騒動記」(2011年)が記憶にあるくらいで、本格の題材は大変に珍しいと思う。ドキュメンタリーと異なりエンターテイメント性を持たせた商業映画には難易度が高い分野だと思われる。
監督は李相日。「フラガール」(2006年)以来、興行的な成功と作家性を両立させられるわが国でも数えるほどしかいない俊英。本作は実写邦画では珍しく相当なカネをかけた作品であり、リクープにはおおよそ30億円の興行収入が必要と言われている。この数字はたいへんに厳しいだろう。もっとも、製作はアニメで大儲けをしているアニプレックスとその関連会社ゆえ、少々の赤字となってもどうということはないだろうが。
小生の期待値がMAXだった要素としては、メガホンを李相日が取ったこと以上に、脚本を奥寺佐渡子さんが手がけたことが大きい。一方で吉田修一による原作小説は読んではいない。「悪人」(2010年)「怒り」(2016年)で少々懲りている(苦笑)。いや前2作が悪かったわけでは断じてなく、手加減を知らぬほど生々しく書かれていたからゆえ。
その奥寺さんのホンにいささか疑問が残った。全体で175分という長尺。その長さは一切感じなかったが、可能ならばここは削った方が良かったのではないかと感じる箇所もあった。ひとつの例がアヴァンタイトル。即ち出入りのシーンは全面カットしておいて、途中で回想インサートさせた方がより印象が濃くなったのではないかなと思う。約3時間だから時間経過とともに冒頭の印象が薄くなると思うし、カットしたシーンも重要なファクターだし。
次に最後の最後。この長尺の〆かたにも疑問がある。これは相当な難問と思われるが、「あの女優」をああいう使い方で出すのならば、いっそ彼女でラストという手もあったように思う。あの〆では主人公の人生を全肯定してしまうような危うさがあるし、映画として作るのならば「それで本当に良かったのか?」というような疑問を投げるようなやり方もあったのではないかと思っている。「八日目の蝉」(2011年)で原作・角田光代が描かなかった見事過ぎるオチを奥寺さんが創作した過去があるので、こちらは大いに期待をしたのだが、エンディングだけを見れば幻滅もいいところだった。
あとは主人公=喜久雄が立ち直るきっかけとして万菊を使うのはいい。あそこは予想のど真ん中だったゆえ訴求力が弱い。本作を通じて唯一足りなかったのは現代の歌舞伎を贔屓にする旦那衆の姿だ。それを効果的に起用するならあそこしかなかったように思うがいかがだろうか。
に、しても力作には違いない。歌舞伎なんて普段は見ていない、特段興味もない層にも響く作品だ。真の歌舞伎通と言われる人は一定数存在する。その向きには主演の吉沢亮を始めとしたキャスト陣の舞台は殊更にしんどく感じられただろう。それは理解できる。しかしこれはあくまで「映画」なのだ。モノホンじゃない。洋画でもナタリー・ポートマンが「ブラック・スワン」(2011年)で演じた見事なバレエを「ヘタクソ」と詰った向きがあったが、要は「歌舞伎に見える」でおけーではないか。それでも中村鴈治郎さん(歌舞伎指導も行っている)と、寺島しのぶが出演している。全面的にウソを描いては失礼とばかりに、歌舞伎を知らない製作陣が本物の梨園を知る2人によりそった。それでいいと思う。繰り返すがこれは「映画」なのだから。
その他、物語全体としては人間国宝・小野川万菊を演じた品川泯が花丸モノだった。そもそもが舞踊家であるゆえ歌舞伎の舞台でも説得力はあったが、やはり女形の舞とは違うのだろう。違和感は憶えたし、それ以上に渡辺謙サンの踊りもいまひとつ座りが悪かったように感じた。
吉沢亮と横浜流星はよくやったと思う。昨年も「ぼくが生きてる、ふたつの世界」と「正体」で、それぞれ日本映画界のトップランナーに立ったと思われた2人の競演。これもまた見る価値のある要素であり、目くるめくような映像美を「アデル、ブルーは熱い色」(2014年)でパルム・ドールを手にしたソフィアン・エル・ファニがカメラに収めた。ガイジンさんが日本映画でキャメラをやるとは珍しい。
客層は中高年が多い。そんな映画は最近では興行的には苦戦している。この映画で歌舞伎に興味を持つ若い層が増えればいいと思う。原作者の「100年に一本」なんて言葉はどうかと思うが、少なくとも2025年の年度代表作はほぼ決まったと言っていい。見ようか否かを迷っている人には「是非!」と言っておきたい。
娘の“赦し”は、台詞ではなく舞台を観た表情でよかったし、あの方ならそれが出来たと思います。
喜久雄の最後の台詞も同様に。
力のある作品だけに、最後の最後で言葉に頼ってしまったのは、些か残念でした。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。