劇場公開日 2025年6月6日

「強烈なスポットライトと影」国宝 romiさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0強烈なスポットライトと影

2025年6月11日
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鑑賞方法:映画館

吉沢亮さんが今ほどたくさんの作品にお出になるようになる前、なかなか吉沢さんの顔が覚えられなかった。SNSでフォロワーさんの投稿などで写真や映像をちょこちょこ見かけていたんだけど、なぜか「あれ、こんな顔だったっけ?」と毎回思っていました。たぶん多少の歪みとかちょっとした違和感こそが顔の個性として捉えられ、引っかかって記憶に残るのでしょうかね、あまりにも顔の造形が整っているせいか、逆に記憶に残りにくかったのだと思います。
その後は拝見する機会が一気に増えたのでさすがに顔を覚え、すぐ分かるようになりましたが、見るたび「いや〜綺麗な顔だな、まさに美形だな…」とまず造形のほうに意識がいってしまい、正直、あまり演技については注目できていませんでした。(本当に申し訳ないです。)
お芝居がすごくお上手だということに気づいたのは数年前、たまたま或るアニメ映画を観たときでした。主要キャラの声を演じてらしたんですが、正直みている間ぜんぜん吉沢さんだと気づかず、普通にプロの声優さんがやっていると思って聞いていて、エンドロールでひっくり返りそうになりました。声だけの演技だからこそ巧さに気づけました。
それからキングダムなどの実写作品を拝見したときちゃんと演技に注目するようになり、「あ〜あまりに演技が自然だからこそ上手い下手も思わずに観ていたんだな〜」と。
昨年観たコーダの映画では、もはや演技とも思えないくらいの自然さに達していて、ドキュメンタリーを観ているような気分に。手話にまで感情がこもっているように見えて、感服しました。顔立ちの美しさも忘れて演技に見入りました。
(余談ですが、同じく李監督&吉田修一原作の『怒り』で妻夫木さん、『悪人』で広瀬すずさんの素晴らしさに気づいたことを思い出しました。失礼ながらお二人ともやはりお顔立ちの美しさが強烈すぎて、演技について注目できていなかった…)

そんな経緯がありましたので、この映画で喜久雄が「本当に綺麗な顔だね。でもそれは役者には邪魔だ、自分の顔に食われてしまうから」(うろ覚え)というようなことを言われたシーンで、ものすごーく申し訳なくなりました。ほんと顔ばっか見ててごめんなさい…と。吉沢さん自身すごく共感できるセリフなんじゃないかなと想像してしまいました。本当に芝居が好きな役者さんなら、顔が整っていることはむしろ悩みの種にもなりそうですね。

乱れた衣装と崩れた化粧で、屋上で泣き笑いながら踊るシーンの演技、神がかっていました。いや、悪魔と言ったほうがいいか。何が乗り移ったような、何かに取り憑かれたような、あ〜この人はもう歌舞伎に狂ってるんだなと感じ、他の何もかも捨ててでも芸に全てを捧げる役者の純粋に狂った魂に、心を揺さぶられました。

横浜流星さんも凄かったです。横浜さんは同じく李監督の『流浪の月』でDV男役をやられていて、めちゃくちゃリアルで怖く、演技がお上手なのは知っておりました。が、横浜さんといえば真面目でシリアスな役のイメージが強く、今回のようなチャラい役を演じるのを初めて拝見したので、はじめ夜遊びしまくるシーンは少しびっくりしましたが、さすがお上手、だんだん『ちょっと軽薄なところはあるけど芸には真面目、愛嬌がある気のいいお坊ちゃん』を見事に体現されていました。

そして、映像がとてもとても綺麗でした。雪のシーンなどもさることながら、やはり歌舞伎のシーンがとてつもなく美しかった。
舞台を照らす強烈なスポットライトによって落ちる濃い影が、非常に印象的に映されていて、圧倒されるような迫力がありました。
ラストシーンは呼吸も忘れて見入りました。

歌舞伎については私はド素人なので何も言えることはないのですが、いつか生の舞台を観に行きたいと強く思いました。地方住みなのでなかなか難しいですが…
歌舞伎に造詣が深いと思われる方のレビューで、歌舞伎シーンが微妙というようなものも見ましたが、私のような無知な人間に「生で観てみたい」と思わせる力はありましたし、それが歌舞伎の観客を増やして歌舞伎界を盛り上げるきっかけにもなるでしょうから、このような映画が作られたのは悪いことではないのではないでしょうか、などと思ったり。

それでは、積読していた原作小説をさっそく読みたいと思います。

romi
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