「影の主役は糖尿病」国宝 おきらくさんの映画レビュー(感想・評価)
影の主役は糖尿病
歌舞伎については海老蔵ぐらいしか知識がない歌舞伎初心者だが、この映画の歌舞伎シーンの完成度には驚いた。
本物と見紛うばかりの迫力で、特に吉沢亮と横浜流星の歌舞伎の演技は圧巻の一言。
まるで『ミッション:インポッシブル』シリーズでトム・クルーズのアクションを目当てに観るように、この映画は二人の歌舞伎シーンを堪能するためにあると言っても過言ではない。
吉沢亮ファン、横浜流星ファン、歌舞伎ファンなら大絶賛間違いなし。
個人的には、渡辺謙の老いた演技も非常に印象的だった。
一方で、歌舞伎シーン以外のドラマ部分には物足りなさを感じた。
物語をドラマチックに繋げようとしているのはわかるが、話に深みがなく、やや陳腐に映った。
ドラマが収拾しそうになると糖尿病が暗躍し始め、物語が大きく動き始めるという構造。
糖尿病の恐ろしさは十分伝わった。
吉沢亮演じる喜久雄が「歌舞伎が上手くなるなら他は何もいらない」と語る場面があったが、恋人からのプロポーズを断ったのならまだしも、実際は逆で、さらに別の女性と子供をもうけていて、彼の言葉に説得力を感じられなかった。
才能があっても成功しない歌舞伎の世界って酷いと感じたが、夢が思い通りにならないことの方が普通なわけで、例え地味な活動になったとしても、献身的に支えてくれる女性がいるだけで十分幸せなのではないか、と感じてしまった。
波瀾万丈な物語の末にたどり着いた状況を見た時、「最初からそうすれば良かったのでは?」という思いが頭をよぎった。
クライマックスの歌舞伎シーンは、『侍タイムスリッパー』を彷彿。
この場面は序盤の「ドスで親の敵討ち」の場面との関連性を示唆しているようにも思えたが、「だから何?」と感じてしまった。
李相日監督の作品には毎回濡れ場が登場する印象があるが、本作の濡れ場には必然性を感じられなかった。
まるで女優のエロいシーンを撮りたいだけのように見えてしまい、残念だった。
ラストで滝内公美が「国宝」についてディスり始めた時は、「国宝が題材の映画でこれは斬新」と驚いたが、家族を捨てた人物をあっさりと許してしまう展開には、思わず「はあ?」となってしまった。
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