劇場公開日 2025年6月6日

「悪魔との契約後も努力し続けることを止めない『ファウスト博士』」国宝 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5悪魔との契約後も努力し続けることを止めない『ファウスト博士』

2025年6月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

興奮

ドキドキ

予告編を見、荒筋を読んだ限りでは、
「氏より育ち」が「梨園の家格」を凌駕するお話か、
真逆の「血は水よりも濃し」の落としどころかと思っていた。

なぜなら歌舞伎の世界での
血筋に重きが置かれることは論を待たず。

先代が廃業し後ろ盾のない『獅童』や
養子である『愛之助』の立場は耳にするところ。

更には「高麗屋」と「成田屋」の
昔からの関係も同じ文脈。

浮世絵に描かれている両家の役者を見れば、
特徴的な鼻の形の区別がつかぬ時さえある。

そんな中で異色は『玉三郎』か。
1950年の生まれで早くして人間国宝に。

梨園の出ではなく、高身長に左利き、
養父も随分と若い頃に亡くしている。

にもかかわらず今の地位。
どれだけの研鑽を積み、いかほどを犠牲にしたのかと、
頭を垂れる思い。

本作の主人公が女形とのこともあり、
『玉三郎』の姿が投影されているようには見える。

もっとも劇中で、血と芸についての言及がないわけではない。

御曹司を守ってくれるのは血筋だし、
部屋子を守ってくれるのは身体に染み付いた稽古の結果だと
いみじくもふれられる。

とは言え、二人の主人公が、堕ちるところまで落ちても、
最後のよすがになるのが芸への執念なのは
もっとも感銘を受けるエピソード。

その線上で『寺島しのぶ』のキャスティングは興味深い。

当初は梨園の慣わしについて素で演じられることが眼目かとも考えたが、
ストーリーが進むに連れ異なる思いも湧き上がる。

『菊五郎』の子供に生まれながらも
女であるばかりに歌舞伎役者にはなれない。
加えて母親は易々とは越えられない高い壁の『藤純子(緋牡丹のお竜)』。

が、身体を張った演技で数々の賞をものにし、
今では一枚看板に。

彼女の生き方もまた本作に重ねて見えてしまう。

歌舞伎の世界でも四肢を失ってなお舞台に上がった役者が
江戸時代には居たよう。

しかしより最近の例としては『エノケン』を思い起こす。

脱疽で右足を大腿部から切断しても
義足で舞台に立った気概には感銘を受ける。

『吉沢亮』と『横浜流星』の努力は認めつつ、
舞踊家『田中泯』の演技と踊りが
二人を凌駕していたのも事実。

とりわけ劇中での〔鷺娘〕は、
短い尺ながら自家薬籠中としている。

できればフル尺で観たいものだが・・・・。

ジュン一
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