「ともかく規格外れの作品であることは間違いない」国宝 あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
ともかく規格外れの作品であることは間違いない
原作は朝日新聞掲載時に毎日楽しみにして読んでいた。吉田修一に他に芸道を素材とした小説はないのでは?上方歌舞伎の御曹司と部屋子が主要登場人物であることも珍しく、話の方向がどこに向かっていくのか全く予想できずワクワクさせてくれた。毎日、新しい世界に接することができる、珍奇で、でも美しい箱庭を覗き込んでいるような印象を受けたのを覚えている。
さて、本作でこの吉田修一の大長編はほぼ完璧に映画化された。いくつかの点で規格外れと思われる作品なので挙げておく。まず、なんといっても、歌舞伎役者を取り上げた作品であり、それも踊り中心の女形が主役でありながら、歌舞伎役者でない一般の俳優が演じているところ。そして歌舞伎の暗部である、やくざ者との付き合いであるとか花柳界の女性の扱いであるとかにやや踏み込んでいること、そして興行サイド、松竹がモデルである会社との持ちつ持たれつの関係も描かれている。(制作、配給が東宝であることは興味深い)
ただ後者の方は、時間の制約もあるし、自主規制などの兼ね合いもあるのだろうがやや中途半端に終わっている。喜久雄の原点となる長崎時代のエピソードはもう少し尺を使って掘り下げて欲しかったし、喜久雄が興行師として生涯つきあうことになる竹野(映画では三浦貴大が演じる)についても二人の出会いが原作通りであるだけにもう少し踏み込んで描いて欲しかったとは感じた。
恐らく、映画だけ観た人は、お坊ちゃんでわかりやすい俊介に比べれば、喜久雄の人となりは最後、国宝になるところまで観てもよく分からなかったのでないか。でもこれは原作でも同じであって巨大な人物というのは外からは掴みづらいといった価値観で原作も描かれているようだ。
映画ではなんといっても規格外れなのは喜久雄と俊介の「半々コンビ」の共演であろう。特に最後の共演となる「曽根崎心中」の場面は凄まじい。これ一つ見届けるだけでも3時間を費やす価値はある。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。