劇場公開日 2024年6月7日

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「痛みと優しさが押し寄せるロードムービー」ハロルド・フライのまさかの旅立ち 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0痛みと優しさが押し寄せるロードムービー

2024年6月28日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

世界的ベストセラーの原作を、作者が自ら脚色した本作。まずもって引き込まれるのは、ジム・ブロードベントが手紙を投函するタイミングを失って、次のポスト、また次のポストと彷徨い歩き、気づくと旅がもう始まっているところだ。最初の前提条件や理由をすっ飛ばし「歩く」という行為へ踏み出させるこのナチュラルさ。歩くことはどこか祈りに似ている。また、歩を重ねることは思考や記憶の反芻にも通ずる。心や感情が動くことで、これまで断片的にしか考えられなかったこと、直視するのを避けていた現実とも、自ずと向き合えるようになっていく。そしてサウス・デヴォンからイングランドとスコットランドの境界近くにあるベリック・アポン・ツイードまで、移りゆくリアルな景色の雄大さ、美しさが、活字を超えた映像作品ならではの情緒となって感動を深めゆく。ロードムービーが生まれにくい英国の地で、またひとつ、痛みと優しさが同居する旅映画が生まれた。

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牛津厚信